日本初となる女性プロサッカーリーグ、WEリーグの開幕が近づきつつある。
三菱重工浦和レッズレディースは、9月12日にアウェイで日テレ・東京ヴェルディベレーザと第1節を、9月20日にホーム浦和駒場にて第2節をノジマステラ神奈川相模原と対戦する。
開幕が迫ってきた今の心境を、猶本光に聞けば、期待感が高まっているかと思いきや、強い危機感を抱いていた。
「今までのようにサッカーだけをしていればいいということではなく、プロリーグになり、多くの観客に来てもらわなければいけないですし、見てもらわなければいけないという意味では、危機感を持っています。どうすれば、それが実現して、長く続くリーグにしていけるかという思いのほうが強いですね」
2007年になでしこリーグでデビューを飾り、15年目のキャリアを迎える猶本だけに、これまでの苦労や歴史を思い起こせば、なおさらだった。
「プロになれば、次のシーズンもプレーできる保証はないですし、よりシビアな世界に全員が置かれることになる。日本女子サッカー界が発展していくためにも、プロ化は必要なことだったとは思いつつ、世界を見渡せば、過去にアメリカのプロリーグが廃止に追い込まれたケースもあり、WEリーグを存続させていくためにも、背筋が伸びる思いです」
今までもサッカーだけをしていればいいという考えではなかった。WEリーグの開幕が近づき、その意識はさらに高まっている。
「サッカー選手なので、ピッチでいかに観客を引きつけられるかというのは大前提にあると思っています。それにプラスして、今まで以上に、自分たち自身もどんどん表に出ていく必要がある。例えば、Jリーグの選手たちは、SNSもうまく活用していると思いますし、知名度を上げていく活動を積極的にしている選手も多いですよね。
私たちも、サッカーをしている女の子の目標や憧れになれるように、サッカースクールも含めて、地域での活動も積極的に取り組んでいかなければと感じています」
猶本がピッチ内だけでなく、ピッチ外にもさらに目を向けるようになった契機として、WEリーグが行った研修がある。
7月上旬、WEリーグはさまざまな講師を招いて選手たちが参加する研修を実施。猶本自身も、そこで刺激と発見を得ていた。
多岐に渡る講義のなかで、特に猶本の印象に残ったのが「アスリートのメディア対応」だった。
「その講義を聞いて、自分たちがWEリーグを安定したリーグにするために、何ができるかを考えたとき、メディア対応やメディアでの活動も必要だということに、改めて気づかされました。
講師の三須亜希子さんからは、選手たち自身もメディアをうまく活用して情報を発信していくことで、より多くの人たちに知ってもらえる機会があること、またメディアの特性によってそれぞれに役割があることを伝えてくれました。積極的に自分もメディアに出ることで、WEリーグ、そして自分自身を知ってもらえることができたらと考えるようになりました」
オウンドメディアではあるが、こうして浦和レッズニュースの取材に応じてくれているのも、メディアに出ることの重要性をさらに理解してくれたからだろう。猶本がメディアでの活動に積極的に取り組んでいるのは、研修が響いたからだ。
播戸竜二が講師を務めた「プロフェッショナルとは」という講義では、ピッチ内にも活きる考えに触れた。
「播戸さんは、自分自身の経験をもとに話をしてくれました。プロならばオンとオフをはっきりしろと言う人もいますけど、播戸さんは常にオンで、24時間すべてがサッカーのためにあったと教えてくれました。
例えば、オフの日は休養ですけど、その休養すらサッカーのためにあると。食事も、寝ることも、すべてはサッカーのためにあったということを話してくれ、自分のなかにスッと入っていく感覚がありました」
これは猶本だけに限った話ではないが、WEリーグが創設することで、選手たちはピッチ内外で意識が変わり、プロとしての姿勢を身につけ、変化、成長していくのだろう。
そういう意味では、Jリーグのチームである浦和レッズとWEリーグのチームである三菱重工浦和レッズレディースの交流は、今後、さらに増えていくかもしれない。
猶本も言う。
「レッズは男子もそうですけど、やっぱり日本一というか、リーグを引っ張っていかなければいけないクラブ。結果を残すことも含めて、いろいろなことに取り組んでいきたいと思います。
レッズは、本当にたくさんのファン・サポーターがスタジアムに足を運んでくれて、地域でもたくさんの人たちに応援してもらっていることを感じています。だからこそ、私たちもWEリーグのお手本になるようなクラブになっていかなければいけないと思っています」
Jリーグが開幕したのが1993年。そこから30年の月日を経て、浦和レッズは日本を代表する熱狂的なファン・サポーターを持つクラブになった。
三菱重工浦和レッズレディースもWEリーグが開幕する2021年、新たなる一歩を踏み出す。
ともに歩んでいくことで、さらなる発展が期待できそうだ。その化学反応を起こしていく中心にいるのは、間違いなく猶本をはじめとする選手たちだ。
(取材/文・原田大輔)
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