2021年9月にいよいよスタートする女子プロサッカーリーグのWEリーグ。その開幕に先駆け、4月24日から約1カ月半にわたってプレシーズンマッチが開催される。
WEリーグ プレシーズンマッチ日程
なでしこリーグ最後のチャンピオンとなった三菱重工浦和レッズレディースも現在、チーム作りを着々と進めている最中だ。
2019年に監督に就任し、昨シーズンは6年ぶりのリーグ優勝へと導いた森栄次総監督が、生まれ変わったチームの雰囲気を語る。
「これまでは大学生がいたり、働いている選手がいたので、夕方から練習をしていたんです。でもプロ化された今は、朝の9時からトレーニングをしています。静かで、明るいなか、天然芝で練習ができて、選手たちも『集中してやれる』と喜んでいます」
今オフは、大宮アルディージャVENTUSとサンフレッチェ広島レジーナが新規参入したこともあり、選手の移籍が活発だった。
大宮アルディージャVENTUSが現役なでしこジャパンのDF鮫島彩(INAC神戸レオネッサから)、MF阪口夢穂(日テレ・東京ヴェルディベレーザから)を獲得すれば、サンフレッチェ広島レジーナはドイツW杯優勝メンバーのDF近賀ゆかり(オルカ鴨川FCから)とGK福元美穂(ちふれASエルフェン埼玉から)を獲得した。
一方、レッズレディースはおとなしいストーブリーグを過ごした。
「意図的に外から獲らなかったという面はあります。この2年間で築き上げたサッカーをベースにWEリーグでどこまでやれるか試したかったし、新しい選手を入れてベースを崩したくなかった面もあります。それに、ユースから優秀な選手が3人上がってきましたからね。若い選手たちをしっかり育てていきたいと思っています」
ディフェンスラインから攻撃を組み立て、ショートパスやポジショニングで相手を惑わせ、ボールを失ったら即時回収する――。
まるで浦和レッズのトップチームが掲げるようなサッカーでリーグを席巻し、無類の強さを発揮した20年シーズン。そのスタイルにさらに磨きをかけようというわけだ。
「リスクを背負った形で攻撃をしています。ただ、その割には得点が少ない。1点差で勝った試合が多いので、2点差、3点差を付けて勝ちたい。ディフェンスの部分でも、もっと切り替えの速さを要求していきたいですね」
前線には、昨年のなでしこリーグ得点王で、なでしこジャパンのエースでもある菅澤優衣香がいる。しかし、森総監督が上積みしたいのは2列目の得点力だ。猶本光、水谷有希、塩越柚歩、さらには佐々木繭、清家貴子といったサイドバックにも得点を求めている。
「中盤の選手にもっと点を取ってもらいたいんです。あと、サイドバックもかなり高い位置でプレーさせているので、得点を狙ってほしい。菅澤のマークもキツくなっていますから」
若手の台頭にも期待している。とりわけ4月はなでしこジャパンの活動があったため、主力選手がチームを留守にする時間が長かった。だからこそ、チーム力の底上げに着手した。
「今まで出ていたレギュラークラスの選手と目を合わせられるように。高いレベルを要求しながらやっています。長嶋玲奈、遠藤優、上野紗稀、ユースから上がって来たばかりの島田芽依あたりにはすごく期待しています。彼女たちがレギュラーに食い込んでくれば、チーム力はもっと高まるはずなので」
一方で、コーチングスタッフには、チームのプロ化による変化があった。
昨年までチームを率いた森氏が総監督となり、U-17日本女子代表監督を務めた実績があり、昨年はレッズレディースユースを率いた楠瀬直木氏が監督に就いたのだ。
これは、プロ化に伴って指揮官にはS級ライセンスが必要となり、森氏は取得していないための措置。もっとも、森総監督と楠瀬監督は現役時代に一緒にプレーした経験があり、育成年代でもともに仕事をしていた間柄。楠瀬氏をレッズレディースに誘ったのも森氏だった。
「読売クラブ時代に1〜2年くらいかな、一緒にプレーしました。ヴェルディのアカデミーでも同僚で、知り合ってもう30年になります。前に急ぐのではなく、保持する時間を増やしながら、緩急をうまく付けて入り込んでいく。そんなサッカー観も非常に近い。選手に対してすごく温かいところもいいなと。彼と二人三脚でやっていきたいと思っています」
WEリーグ初代王者を目指すレッズレディースにとってライバルとなるのは、日テレ・東京ヴェルディベレーザとINAC神戸レオネッサだろう。
ただ、前者はMF長谷川唯がACミラン(イタリア)へ、後者はFW田中美南がレバークーゼン(ドイツ)に移籍するなど、戦力ダウンが否めない。
そうしたなか、森総監督が「不気味ですね」と警戒するのが、大宮アルディージャVENTUSである。
前述のように大型補強を敢行しただけでなく、元なでしこジャパンFWの大野忍がコーチに、さらに、なでしこジャパン前監督の佐々木則夫氏が総監督に就任したのだ。
「則夫さんは、しっかり守って仕掛けてくるスタイル。なでしこジャパン時代の教え子を多く獲得しているし、どんなチームになるのか見えないだけに警戒しないといけない」
レッズレディースと大宮アルディージャVENTUSによるさいたまダービーが、WEリーグの目玉となっても不思議ではない。
「プロ化に際して、ぜひ女子サッカーにも興味を持ってもらいたいですね。面白いサッカーをお見せしたいと思います」
ボールを保持して主導権を握り、魅力的なサッカーを展開するレッズレディースのサッカーを、スタジアムでぜひ堪能してもらいたい。
(取材/文・飯尾篤史)