肌を焦がすような日差しの強い夏になると、必ず思い出す。レッズの柴戸海は、サッカー部の仲間たちと真っ黒に日焼けしていた日のことを今でもよく覚えている。
ひと息ついて、昔の記憶をたどると、思わず苦笑していた。
「イチフナ(市立船橋高校)時代の夏合宿は強烈だったので。通過儀礼なものなのですが、1年目は本当にきつかった。毎日のように3部練習。朝は5時くらいからライン引きをするんです。少しでもずれただけで、すごく怒られました」
食事もトレーニングの一環。朝昼晩いずれもご飯茶碗5杯の白米をたいらげるのがノルマ。ご飯1杯につき、水は1杯のみ。水で流し込むのは厳禁なのだ。
おかずはご飯1杯分の量のみ用意されている。想像はつくだろう。3杯目からはおかずがなくなるのだ。そこで頼みの綱になるのは、ふりかけ。味は卵、鮭など数種類、準備されていた。
ただ、それもさすがに飽きてくる。5杯目になってくると、気合で口にかきこむしかない。
「それだけ食べて、練習では信じられないくらい走るんです。周囲に何もない合宿先の周りをひたすら周回することもありました。終わりがないって、メンタル的に辛いんですよ」
場所は福島県のスキー場。スキー板を履いてすいすいと滑るゲレンデは、夏になると芝生が生えた、ただの小高い丘になる。もちろん、リフトは動いていない。イチフナのトレーニングには最適な環境だった。
「ゲレンデの坂道ダッシュをめちゃくちゃしましたよ。何本走ったかは分からないくらいですね」
夕方の練習が終わり、宿に戻れば、また大盛り5杯のご飯を胃に押し込む。そして、泥のように眠るのだ。暑くて寝苦しい日は、少しひんやりした廊下で雑魚寝。嘘のような本当の話である。
夏は合宿だけでは終わらない。うだる暑さのなか、千葉のグラウンドでイチフナに代々引き継がれている伝統のメニューもよくこなした。
「『16・44(じゅうろく・よんじゅうよん)』は一生、忘れませんね。ゴールラインに全員並んで、反対側のゴールラインまでダッシュするんです。帰りはジョグ。行きは16秒以内、帰りは44秒以内。全員が決められたタイム内に入らない限り、終わりません。僕は走れない選手の背中を押して、走っていました。
これもまた本数が決まっていないので、いつ終わるのかが分からなくて……。とりあえず10本は走って、そこからどれくらい走ったんでしょうね。あれも精神的にかなり堪えました」
それでも、不思議なものである。今となっては、地獄のトレーニングも良い思い出。気力と体力の限界まで追い込み、一緒に走った仲間たちとの時間は、かけがえないものとなっている。
「多くのことを犠牲にして、サッカーに打ち込んでいましたから。今の体力の土台にもなっていると思います。忍耐力も付いたと思います。精神的に強くなりましたよ」
夏本番。柴戸が力を発揮するのは、ここからだ。負傷していたヒザの調子も徐々に良くなりつつあり、ピッチで完全復活する日は近づいている。
(取材・文/杉園昌之)
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