フワッとしたクロスボールが、ゴール前にあがってくる。
飛び込んでくる攻撃陣は2人。1人はニアに、もう1人はタイミングをずらして走ってくる。目の前にはDF役の人形が2体。クロッサーは、この人形に合わせてボールを入れる。
3月25日、ルヴァンカップ対清水戦前日のトレーニング。いつも以上に緊迫した空気を醸し出し、大迫敬介はトレーニングを続けていた
「行けっ」
フィールドプレーヤーたちが叫ぶ。クロスにピタリ。強烈なヘッドがゴール前3mの位置から唸りをあげた。
ただ次の瞬間。
「ナイス、ケイスケッ」
叫んだのは林卓人と川浪吾郎、2人のGK。シュートをキャッチした22歳の守護神を称賛した。
大迫のストレッチポイントはハイボールの正確なキャッチ。そのタイミングを入念にチェックする(3月25日撮影)
昨年、広島のクロスからのゴールはわずか8得点。川崎Fの26点、神戸の18点とは比較にならない数字である。そこを改善しようとミヒャエル・スキッベ監督は、クロスの入れ方やタイミング、中への飛びこみ方などを細かく指示し、トレーニングを重ねた。
ただこの練習は、GKにとっても「リアリティのあるトレーニング」だと大迫は言う。
GK陣は1つのポジションを奪い合う競争社会だが、一方で共に競い合い高め合うチームとしての意識も強い。大迫も尊敬する先輩・林卓人の練習をサポートする(3月25日撮影)
「監督は『緩いスピードでいいから、中の状態を見てピンポイントでクロスをあげろ』と言っているのですが、それはGKにとっては守備しづらい。FWにとってはコントロールしやすいし、ピンポイントでくればGKとしては先に動けない。もちろん、常に緩い方がいいというわけではないんですが。そして至近距離からのシュート対応も、GKにとってはいい練習。GK練習だけでは限界があるし、僕らの成長にも繋がります」
ゴールキーパーも1人のサッカー選手。ボールを蹴るトレーニングではやはり笑顔がこぼれる(3月25日撮影)
3月25日、ルヴァンカップ対清水戦の前日。スキッベ監督は「ケイスケには、チャンスが与えられるべきだ」と語り、彼の先発を予告した。シュートがDFに当たり、クリアが相手に渡るなど、不運な失点はあったが、総じてプレーは安定していた。
「内容は悪くない。あとは勝利。そのためには、日々の積み重ねしかない」
成長と結果を求め、大迫敬介は今日も汗を流し、泥にまみれる。明日はきっと、今よりも良くなると信じて。
大迫敬介(おおさこ・けいすけ)
1999年7月28日生まれ。鹿児島県出身。2015年、サンフレッチェ広島ユースに加入し、1年の時からレギュラー。高校2年の時には高円宮杯プレミアリーグWESTの優勝に大きく貢献した。2018年、トップチームに昇格。2019年にはレギュラーの座を確保し、日本代表にも選出された。今季はベンチスタートが続いているが、練習ではこれまで同様、最後までピッチに残って努力を続ける。今季は川村拓夢や仙波大志、満田誠ら広島ユースの同期がチームに加入し、彼らに大きな刺激を受けている。
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