「チンチンにされてしまってます」と川崎F担当記者がハーフタイムに嘆いたほど、広島は王者を圧倒した。
Jリーグ第5節・対川崎F戦(3月19日)、前半のシュート数は広島10で川崎Fは3。記者の言葉は数字でも証明できた。
だが73分、広島はセットプレーから失点。状況を打開しようとミヒャエル・スキッベ監督が打った手が、CB住吉ジェラニレショーンのFW起用だった。
厳しいトレーニングでも笑顔が絶えない明るさ、これも住吉の大きな魅力(3月16日撮影)
「前線で身体を張って、起点となれ」
スキッベ監督はパワープレー(ロングボールを背の高い選手に集める戦術)ではなく、住吉の強靱な身体が持つパワーでボールを収め、そこからコンビネーションで崩そうと考えた。大学時代までFWだった彼の得点感覚にも期待した。
日本代表DF佐々木翔と組んでのウオーミングアップ。住吉にとっては偉大な目標であり、そしてポジションを狙うライバルでもある(3月15日撮影)
実は熊本キャンプの時、筆者は彼に「FWでプレーしたい?」と質問している。練習で見せていた破壊的な突破や豪快なシュートを見てFWとしての魅力を感じたのだが、この時彼は「僕はDFで勝負したい」と答えている。
ボールポゼッションのトレーニングでも、昨年の移籍時と比較して格段の成長を見せている(3月16日撮影)
実際、CBとしての彼も魅力的だ。
ルヴァンカップ第2節の名古屋戦(3月2日)では柿谷曜一朗ら能力の高いFWを完璧に抑えて、2試合連続完封に貢献。最後尾からのロングボールを右サイドの満田誠にピタリとつけ、得点の起点にもなった。
チームでの彼は明確ないじられ役。同い年の森島司も、すれ違いざまに彼のおなかを触っていった(3月16日撮影)
「(住吉)ジェラはいいパフォーマンスを見せている」とスキッベ監督は能力を高く評価。その力を前線でも活かしたいと、指揮官は意図した。
少なくとも、彼が前線でボールを収められると見ていなければ、この起用法はない。残念ながら今回は機能しなかったが、《FW住吉》は間違いなく可能性がある。
「(FW不足という状況もあり)これからも、ありうること。どのポジションでも結果を出したい」(住吉)
水戸での先輩にあたる浅野雄也とは本当に仲がいい。ちょっとしたところでも浅野は住吉をいじろうとする。彼もまた、FWからワイド、そしてFWとポジションを動かしてプレーできるタレントだ(3月5日撮影)
塩谷司はCBやボランチはもちろん、中東で経験したサイドバックでも質の高いプレーができるからこそ、信頼されている。住吉がCBでもFWでも活躍できる選手に成長すればチームのレギュラーどりはもちろん、「将来の日本代表」という足立修強化部長の言葉が現実化する可能性は十分だ。
住吉ジェラニレショーン(すみよし・ジェラニレショーン)
1999年10月5日生まれ。アメリカ合衆国出身。国士舘大時代にFWからCBにコンバート。2020年、水戸に加入。身長181㎝の高さに加え、強さやスピードなど身体能力が高く評価され、1年目からポジションを獲得した。2021年7月に広島移籍。彼と同様に水戸で育った塩谷司や浅野雄也に可愛がられ、チームにもすっかりと溶け込んだ。特に今季のキャンプでは、浅野とのコンビ芸をYouTubeで披露し、ファミリーたちの笑いを誘っている。
【中野和也の「熱闘サンフレッチェ日誌」】