新型コロナウイルス対策のため、Jリーグは2020年以来、試合後の取材はオンライン会見のみに制限していた。その制限が初めて撤廃された3月19日の対川崎F戦、記者たちが待つミックスゾーンに塩谷司が現れた。
ウオーミングアップで塩谷の前を走る住吉ジェラニレショーンは、国士舘大でも水戸でも後輩で、よく可愛がっている。「今年のアイツはチャンスをつかむべき年だし、練習もしっかりとしている」と塩谷は期待をこめる(3月23日撮影)
会見の場合、選手取材は2人だけで質問回数や時間も限られる。だがミックスゾーンなら記者は選手に自由に声をかけることができるし、質問も1人10分の制限はあるが、回数は自由。
この日、筆者が取材できた選手は7人。久しぶりに、これだけ多くの選手の言葉を、試合直後のサポーターに届けることができた意義は大きい。
経験を積んだ今、トレーニングでの塩谷は昔ほどの「ガツガツ感」はない。ただ、ゆったりとした身体の動きの中で全身を集中させ、自分のペースで身体を動かしている(3月23日撮影)
「久しぶりだね、こんな感じ」
ポツリと言った塩谷に「得点をとるためには?」と聞く。
「前線の守備を頑張ってくれているけど、最後のアイデアや精度が物足りない。個人の問題であり、チームとしての課題」
ズバリ。塩谷は、本質を言い切った。
ミヒャエル・スキッベ監督の言葉を通訳する松尾喜文コーチの言葉に、塩谷は耳を傾ける(3月23日撮影)
「ただ、これで内容も伴っていないのであればサッカーを変えた方がいいのかも知れないけど、試合を重ねる毎にいいプレーが出ているからね」
この言葉を引き出せたことで、取材は成功だ。見ている側と同じ想いを塩谷と共有し、その上で希望を語ってくれた。敗戦直後、意気消沈していたサポーターにとって、この彼の言葉は大きな意味を持つはずである。
4対4のスモールゲーム。声を出して味方を鼓舞しつつ、塩谷は身体を動かす(3月23日撮影)
23日、塩谷は改めてこんな言葉を口にしている。
「クオリティというよりも、まずはシュートへの意識ですね。PAまで行ける回数は増えているわけで、そこでどうやってシュートで終わるか。ルヴァンカップの名古屋戦で(満田)マコが決めたようなシュートを打つ意識や積極性がもっとあっていい」
その言葉を彼は、自身にも突き刺す。
「自分も、バランスを考え過ぎて前に出るプレーが少なかった」
時折見せる塩谷のスプリント能力は高い。バネもあり、身体も強い。まさに怪物級のフィジカルだ(3月23日撮影)
この日のトレーニングでは、クロスから強烈無比なゴールを何本も決めていた。クラブ・ワールドカップ(2018年)でレアル・マドリードからゴールを奪った破壊力を爆発させる決意を、塩谷司は固めている。
塩谷司(しおたに・つかさ)
1988年12月5日生まれ。徳島県出身。徳島商高から国士舘大を経て、2011年に水戸加入し、翌年8月に広島に完全移籍。水戸時代は守備の強さが突出していたセンターバックだったが、広島移籍以降はそれに加えて攻撃能力が開花。ドリブルでの突破、ゴール前での冷静さ、破壊力満点のシュート、豪快な直接FKなどフィニッシャーとしての才能を発揮。昨年11月27日にも豪快なボレーを決めるなど、得点力は健在だ。「言われれば、いつでもFWでプレーしたい」と彼は常に語っている。
【中野和也の「熱闘サンフレッチェ日誌」】