サンフレッチェ広島には、元日本代表の肩書きを持つGKが2人いる。1人は林卓人、そしてもう1人は大迫敬介だ。彼らは今、チームに1つしかない正GKの座をかけて、壮絶なポジション争いを続けている。
広島のGK練習にはいつも緊迫感がある。大迫がボールに立ち向かった後、ゆっくりと入ってきたのが林卓人。ピリッとした空間の中、最初に練習した川浪吾郎も含めた3人の競い合いが続く(11月18日撮影)
昨年も今年も、最初にポジションを確保したのは大迫だった。だが、シーズン後半になると林が盛り返し、レギュラーを奪い返す。
2年連続して開幕スタメンを勝ち取ったことは、大迫の実力の証明。だが昨年も今年も奪い返された事実は、安定性の不足を示している。もちろん、調子の波が下降したととしても、彼のレベルは高い。しかし、広島には安定してハイレベルのパフォーマンスを計算できるベテランがいる、ということだ。
「今、自分の状態はいいです」と大迫は語る。
「もちろん、試合に出たい。スタジアムに多くのサポーターがつめかけ、Jリーグらしい雰囲気が戻ってきている今だからなおさら、ピッチに立ってプレーしたい。そのためにも、しっかりと練習して今のコンディションをさらにあげていくだけ」
試合に出られない現状にあっても、大迫のモチベーションは変わらない。練習量も今までどおりチーム屈指だし、言葉も前向き。それでも、J1通算100完封(史上5人目)を成し遂げた偉大な林卓人からポジションを奪うのは、容易ではない。それは、大迫自身が1番、わかっている。
大迫の武器であり、そして課題でもあるキックのトレーニング。2020年9月9日の対清水戦ではアシストも記録(11月18日撮影)
では、どうすれば試合に出られるのか。
「まずは自分の目標を失わないこと。19歳でデビューしてここまで、悔しいこともたくさん、経験してきました。でも、この悔しさがきっと未来に繋がる。絶対にチャンスが来ると信じているし、その時にいいプレーができるように準備するだけ」
GKも参加してのポゼッショントレーニング。後ろからボールを繋げるGKに成長するためにも、欠かせない練習である(10月8日撮影)
彼の言葉は綺麗事に聞こえるかもしれない。しかし、大迫は本気でそう信じて、この厳しい現実と向き合っている。
「敬介はこれから広島だけでなく日本を背負っていく選手」
林卓人は常々、大迫についてこう語る。藤原寿徳GKコーチは「敬介は必ずやる男。例えばこれまで彼はプロの公式戦でPKを止めたことはありませんが、日々のトレーニングでは成長しています。近いうちに敬介がPKを止めるシーンを見ることができると信じています」と主張する。
それは、どんな状況下でも絶対に腐らずに前を向いて努力を続ける大迫敬介を、信頼しているからこその言葉である。
大迫敬介(おおさこ・けいすけ)
1999年7月28日生まれ。鹿児島県出身。2015年、様々な誘いの中からサンフレッチェ広島ユースを選択。高校2年の時には高円宮杯プレミアリーグWESTの優勝に大きく貢献した。2018年、トップチームに昇格。当初は紅白戦にも出場できないような評価だったが、翌年にはレギュラーの座を確保し、日本代表にも選出された。広島ユース出身のGKが日本代表に昇り詰めたのは、大迫が初めて。今年は東京五輪代表にも選出。試合に出ることはできなかったが、ベンチからチームをしっかりと支えた。
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