日産スタジアムに大きな声が響きわたった。
叫びの主はドウグラス・ヴィエイラ(以下ドグ)。いつも笑顔で、声を荒げることなど、ほとんどないストライカーが、怒りに満ちた厳しい視線と共に、ベンチに向かって叫んだ。3月7日の横浜FM戦、後半の出来事だ。
昨年も、トレーニング中に仲間たちとの意志疎通ができずに思わず大きな声を出したことがあった。彼が感情をむき出しにしたシーンを見たのは、2019年の広島移籍以降、これで2回目だ。
3月11日、このシーンについて尋ねた。
「いや、ただ勝ちたい気持ちが爆発しただけさ」
ドグは詳しく教えてはくれない。
ポゼッションのトレーニングでボールのないところでの質の高い動きを見せるドウグラス・ヴィエイラ。「いい切り替え、ドグ」と城福浩監督の声が飛ぶように守備に対しても積極的(1月30日撮影)
質問を変えた。
「チームの現状はどうかな」
城福浩監督が目指すのは「相手陣内でのサッカー」。だが現実は、相手に押し込まれる時間も長く、ボール支配率も低い。
「少し、ラインが低いね」
ドグは穏やかな口調で語る。
「押し上げるのはリスクもあるけれど、でもどこかでリスクを負う必要があるんだ。今はみんな、ちょっと慎重になりすぎている。気持ちはわかるが、勇気をもってみんなで、ラインを押し上げるんだ」
その意見に荒木隼人も「僕たち後ろの選手が勇気をもって押し上げれば、チーム全体も前に行く」と賛同する。
ブラジル人選手たちだけでなく日本人選手たちとのコミュニケーションも良好。ある程度の日本語もOKだ(3月12日撮影)
3月13日の鹿島戦55分、森島司が強烈なプレスを仕掛け、エヴェラウドからボールを奪う。
必死に戦った森島の想いを受け取ったドグは、中央で待つエゼキエウに「わかっているな」というメッセージ付きの、エレガントなパスだ。
ダイレクトスルーパス!
浅野雄也、フリー!!シュートだっ。
だがボールは、鹿島GK沖悠哉の左足に防がれた。悔しさに表情を歪める浅野。
それでもドグは、優しい表情で包み込む。
「決定機を外すことはよくあること。チームとしてもっとチャンスをつくればいいだけ」
ドウグラス・ヴィエイラが示した勇気の必要性は、鹿島戦で彼が創った先制点を含む4つの決定機で示された。これぞ、チームの指針である。
ドウグラス・ダ・シルバ・ヴィエイラ
1987年11月12日生まれ、ブラジル出身。東京V時代は3年で37得点を記録した点取り屋として機能したが、広島では質の高いポストプレーと献身的な守備が印象的。大らかな性格は選手たちからの信望も厚く、ブラジル人選手たちの中心として彼らを束ねるリーダーシップも持つ。
【中野和也の「熱闘サンフレッチェ日誌」】