一昨年のチーム得点王が、開幕からベンチスタートが続いている。
実績では人後に落ちない。
2015年チャンピオンシップ第1戦、G大阪の野望を粉砕した、後半アディショナルタイムでのゴールに代表される勝負強さは抜群。
破壊的なドリブルだけでなく、クロスやパスからアシストも量産できる。
だが、城福監督はそんな柏をベンチに置き、浅野雄也や藤井智也ら若いタレントに期待をかける。
ストレッチや準備のためのトレーニングでも一切手を抜かず、常に笑顔で周りを楽しませる。どんな状況に陥っても柏好文の振る舞いは変わらない(2月23日撮影・身体を横にしてカメラの方に表情を向けている選手が柏)
彼ほどの実績を持つ選手にこういう時、どんな言葉をかけるべきか。
悩んだ末、普通に声をかけることにした。
3月6日、横浜市内で行われた横浜FM戦前日の練習後だ。
「ちょっと、話を聞かせてほしい」
「うん、いいよ」
いつも通りの笑顔で、柏は取材者の前に立った。
「先発じゃない悔しさを爆発させたいね」
質問というか、声掛けというか。
柏は静かに語った。
「起用を決めるのは監督だから。ただ、プロの世界は結果で(立ち位置が)変わるもの。(先発に)割って入れるだけの数字を残せればいい。ルーキーの時も、そうやって這い上がってきた。もう一度、それをやるだけ」
ルヴァンカップ清水戦(3月3日)で、ビッグチャンスが訪れた。エゼキエウの見事なクロスの落下点に、彼はフリーで立っていたのだ。
ゴールか。だが、その前に飛び込んだ鮎川峻がシュート。枠外。
柏が打っていれば。しかしベテランは19歳の鮎川をむしろ、評価する。
「シュンはストライカーだからね。紙一重のところを狙ってくるのは、いい選手の証明だから」
20代の時のギラギラ感ではなく、30代の円熟。強い自負と後輩を慈しむ柏好文の言葉が、心にスッと落ちてきた。
「ありがとう」と伝えた。
「はい」と応えてくれた。
この日の横浜の空のように、まばゆい笑顔だった。
柏好文(かしわ・よしふみ)
1987年7月28日生まれ。山梨県出身。2010年、国士舘大から甲府に加入。2012年、甲府の監督に就任した城福浩によって才能が開花。2014年、広島に移籍。爆発的な突破力と明るい個性でサポーターの支持も厚い。昨年の中断期間中、「少しでもサポーターに楽しんでもらえれば」とクラブ公式SNSを通して自身の料理を公開。玄人はだしの出来映えにサポーターも驚いていた。
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