選ばれし男・大迫敬介は、紫の花を胸に刺したスーツを身に纏って、笑顔で近づいてきた。
その時、記者は1人会見場を出て、森保一監督の東京五輪五輪代表選出記者会見にリモートで参加中。画面をのぞいた大迫に「自分を選んだ理由を質問してみる?」と冗談を言うと「とんでもないです」と恐縮しつつ、「嬉しいです」と言ってまた、笑った。
6月22日の発表を前にして、大迫は「自分が選ばれる」という確信を持てないでいた。
2019年、19歳でポジションを勝ち取り、日本代表にも選出されて南米選手権にも出場。実績を積んできた自負もあった。
だが、6月1日から始まったU-24日本代表の活動で、「自分のプレーを表現することができなかった」と大迫は言う。
ピッチに立ったのはフル代表との試合(6月4日)の45分間だけ。国際試合で起用されたのは谷晃生(湘南)と鈴木彩艶(浦和)の2人で、特に鈴木のポテンシャルを高く評価する声が大きかった。
大迫が広島に戻った6月13日、藤原寿徳GKコーチが練習後、彼に声をかけた。
「五輪代表に選ばれて出場できればいいし、落選したらそれは敬介の未来にとって必要なこと。どっちにしてもいい経験になる。泰然自若でいいじゃないか」
言葉が、胸に突き刺さった。「次の試合に集中するんだ」。決意を固めた。
6月20日、柏戦。大迫のプレーは決して目立ちはしない。しかし、的確なポジショニングと判断で相手のカウンターに対応、FWアンジェロッテイの危険なシュートもしっかりとキャッチした。「素晴らしいパフォーマンスだった」と藤原コーチが称賛するプレーを見せて勝利に貢献した大迫はその2日後、東京五輪代表の座を射止めた。
背番号は1。「番号と序列は関係ない。でも、1番に恥じないプレーを見せて、金メダルを目指して戦いたい」
大迫敬介なら、きっとできる。
大迫敬介(おおさこ・けいすけ)
1999年7月28日生まれ。鹿児島県出身。少年時代から才能を認められ、年代別代表の常連。身長187㎝と現代のGKとしては決して大柄ではないが、ハイボールの強さも際立つ。性格は大らかで誰もに愛される優しさもあるが、反面いたずら好き。森島司の腕を冗談で締めた時、アザをつけたほどの腕力の持ち主。
【中野和也の「熱闘サンフレッチェ日誌」】