池田誠剛フィジカルコーチが「チーム最高の努力家」として名前をあげたのは、大分戦(3月21日)にプロ初得点をあげた鮎川駿と、21歳の守護神・大迫敬介だった。
「ただ」と池田コーチは言う。
昨年10月25日。試合に出られない苦しみを味わっていた大迫に、池田コーチが「(ハイボールや積極性など)自分の強みを絶対に忘れるな」とアドバイス。その教えを大迫はしっかりと守っている。
「敬介にとって大きいのは、林卓人の存在。彼ほどの経験を持つ選手が、たとえ先発から外れても(大迫に対して)サポートを続けている。これで敬介が頑張らなかったら、いつ頑張るのか」
昨年、林のハイパフォーマンスの前にベンチスタートが続いた大迫は今季のキャンプでも2番手スタート。だが、そこで腐ることは一切、なかった。
「卓人さんは常に波がなく、レベルの高いブレーを出し続けることができる。僕は学ばないといけない」
偉大な先輩に対してリスペクトを欠かさず、その巨大な壁を突きくずすための方法は1つ。チーム一と評価される練習量しかない。
試合に出られなかった昨年も、練習場での大迫はずっと笑顔でボールを蹴っていた(2020年10月13日撮影)
開幕戦で大迫を起用した理由について、城福監督は具体的には言及していない。
ただ、第2節・横浜FM戦での3失点以降の試合でも指揮官は彼を継続起用。
「交代の選択もあったが、内容は悪くない。大迫に自信を持たせたかった」
昨年の苦境を経て掴んだ成長を感じているからこその監督の決断に、若者は応えた。第3節以降の4試合で失点3。ビッグセーブを連発し、積極的にチャレンジする守備でチームの無敗に大きく貢献した。
大迫敬介のトレーニングを先輩・林卓人はいつも、静かに見守っている(2020年10月25日撮影)
林卓人は「(大迫)敬介はこれからの日本を背負っていく選手」と後輩の可能性を認める一方で「林の凄まじい集中力を目の当たりにできる大迫は幸せ者です」と城福監督が唸るほどのトレーニングを続けている。
「GK王国・広島を代表して試合に出ることに、誇りを感じています」という大迫敬介の言葉は、常に「競争」という名の鋭い刃を突き付けられているからこそのプライドである。
大迫敬介(おおさこ・けいすけ)
1999年7月28日生まれ。鹿児島県出身。少年の頃から将来を嘱望され、年代別代表の常連。2018年、サンフレッチェ広島ユースからトップチームに昇格。2019年、チェンライ・ユナイテッド(タイ)とのACLプレーオフでデビュー。スケールの大きさとハイボールの強さ、そしてメンタルの逞しさを武器に、ポジションを確保。その年、日本代表にも選出された。今年3月、U-24日本代表に選出され、東京五輪代表に一歩近づいた。
【中野和也の「熱闘サンフレッチェ日誌」】