股抜きショットにアンダーサーブ、時にはこの二つを融合させ、股抜きアンダーサーブまで⁉
とにかくトリッキーで、予測不能。
ニック・キリオスが、コート上のエンターテイナーとも、幾分の揶揄を込めて“クラウン=道化師”とも呼ばれる所以である。
悪童のイメージが定着するキリオスだが、そんな彼、日本に来るとイライラも主審への暴言もなし。
今年の楽天オープンでは、残念ながら準々決勝の時点で膝を痛め棄権したが、単複で持てる才能を存分に発揮し、ファンを大いに魅了した。
そうなると際立つのが、彼の純粋なテニスの“うまさ”だ。
異なる球種やコースを織り交ぜ、巧みにラリーを組み立てていく。虚飾を取り除くと浮かび上がるのは、スマートな理詰めのテニスだった。
5年ほど前に、彼に“テニス知性”の高さについて尋ねたことがある。
彼の回答は、シンプルかつ意外なものだった。
「僕のテニスIQはかなり高いと思うよ。子どもの頃は小太りで、速く動けなかった。だから自分が動かなくても済むように、常に先を読むようにした。身体的な才能には恵まれていなかったから、戦略性については勉強したよ」
今や193㎝の均整の取れた長身と、圧倒的な運動能力で知られるキリオス。その彼が子どもの頃は足が遅く、それが技と頭脳を磨いたというのだ。
彼の背が急激に伸びたのが「16歳の頃」。それと同時に、「トレーニングも必死にやりフィットした」という。
なお、キリオスが日本で“優等生”な理由は、「ファンが礼儀正しく、選手に敬意を表してくれる。僕の母親はアジア人ということもあり、アジアの文化は心地よい」ため。
キリオスという稀有な才能の真価が、最も発揮されるのは日本かもしれない。
準々決勝の棄権を発表したのは、開始の直前。ギリギリまで出場の可能性を模索し、最後はコートに登場して、自らの言葉でファンに詫びた。
最後の言葉は、「来年も必ずこの大会に戻ってきます」。
日本中の……いや、恐らくは世界中のファンが、彼が帰ってくるのを待っている。
Nick Kyrgios(ニック・キリオス)
1995年4月27日、オーストラリア・キャンベラ生まれ。ジュニア時代から頭角を現し、19歳時にウィンブルドンでナダルを破り一躍”次代の旗手”として注目を集める。大阪市開催のスーパージュニア優勝経験もあり、日本好きとしても知られる。
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