「ここに座っているのは、なんだが非現実的な感じ」
ウィンブルドンの開幕前会見で、つめかけたプレスを前に、セリーナ・ウィリアムズはゆったりと言った。
現在、40歳。世界ランキングは、1204位。昨年のウィンブルドン初戦で足をすべらせ途中棄権して以来、彼女がコートに立ったのは、21日に行われた前哨戦でのダブルスが初めてだ。
それでも、23度のグランドスラム優勝を誇るレジェンドは、頂点への情熱を失ってはいない。
「今大会の目標は?」
会見で問われた彼女は、「その答えは、みなさんご存じでしょ?」と不敵な笑みを返した。
パワーテニスの旗手と呼ばれるセリーナだが、彼女の強さは、多くの関係者や選手が証言する「基本に忠実」「練習の虫」に拠るところが大きい。
センターコートでの練習で、コーチが球出ししたボールを、フォアとバックのストロークでターゲットを狙うセリーナ
その事実が如実に表れていたのが、開幕を3日後に控えたセンターコートでの練習だ。
天然芝に覆われたウィンブルドンのコートは、状態を維持するため、選手たちの練習時間も厳しく制限されている。センターコートに関しては、世界1位ですら練習が許されぬ慣例だったが、今年は規制が緩められた。
その貴重な1時間半の練習で、セリーナが真っ先にやったのは、コーチの球出しのもと5か所に置いたターゲットを狙うことだ。
スライスも、フォアとバックの両方で、感触を確かめるようにじっくりと打つ
それも、通常のストロークだけではない。
バック、そしてフォアでもスライスで、ターゲットを狙い左右に打ち分けていく。
球出しの仕上げは、ロブ。これもフォアとバックの両サイドで、打感を確かめるように打ち続けた。
ロブを打っている間にスタッフたちはターゲットを回収し、時間のロスなく次の練習に移行
練習時間の後半では、男性のヒッティングパートナー相手に試合形式で対戦する。この時には、フォアのスライスやロブを、意識的に多く用いていたようだ。
以前にセリーナと対戦した戦略家の奈良くるみは、そのプレーを「すごく理に適っている。わたしがお手本とすべきテニス」と評したことがある。155㎝の小柄な奈良が175cmのセリーナに感銘を受けた事実が、「女王」の強さの本質を浮き彫りにした。
「去年、ここでの試合があんな形で終わって以来、戻ってくることを願っていた。今のわたしは、とてもモチベーションが高いの」
セリーナは言葉に意思を込める。
27日に開幕する全英本戦。挑戦者の立場に身を置く復活の女王が、台風の目になりそうだ。
セリーナ・ウィリアムズ
1981年9月26日、米国ミシガン州生まれ。姉のビーナスと共に父親の手ほどきでテニスを始め、17歳の時に全米OP優勝。以降、重ねたグランドスラムタイトルは23。マーガレット・コートが持つ24の史上最多記録に迫る。
【内田暁「それぞれのセンターコート」】