「君は、ちょーウザい選手だよ! 君と対戦すると、ほんとイライラしちゃうんだ」
“準優勝者スピーチ”で、デニス・シャポバロフ(カナダ)は茶目っ気たっぷりにそう笑った。
「Super annoying=超ウザい」とシャポバロフが言った瞬間、客席からは笑い声が上がった
9月26日から10月2日にかけ、韓国ソウル市で行われた、ATPツアー250大会。その決勝でシャポバロフを破ったのは、西岡良仁。
170㎝の小柄な身体でコートを縦横に駆け、パワーに勝る相手を知略で翻弄する、コート上の策士にしてスピードスターだ。
年齢で4つ下のシャポバロフだが、17歳の頃からツアーレベルで戦って来た彼と西岡は、ある種の同世代感がある。
両者は4年前にも対戦し、勝者は、マッチポイントを跳ね除け大逆転した西岡。ちなみにその大会で西岡は、涙のツアー初優勝を遂げている。
単純に1本のショットの威力やスピードを比べるなら、体格に勝るシャポバロフに軍配が上がるのは致し方ないところ。
それでも決勝の対戦では、並走状態のスコアから、最後は西岡が抜け出し勝利をつかみ取った。
この日の試合で目についたのは、シャポバロフのバックのミス。それは、「バックの高い位置を狙う」という西岡の策の奏功を意味していた。
シャポバロフのバックを狙い打つ西岡。そのバリエーションも、コースや高低差ともに豊富
しかもその狙いも、徹底かつ緻密。
普通なら、フォアサイドに振りたくなるだろう局面でも、さらにバックにショットを重ねた。
そして、ジレたシャポバロフがフォアに回り込もうとすると、見透かしたようにフォアに振る。
「彼がフォアに回り込みたくなるのも、サーブの打ちたいコースも分かっていた」という西岡にしてみれば、まさに相手を“ハメた”状態だ。
試合後の会見で、シャポバロフに「ウザい」の打ち分けを尋ねてみる。
「とにかくウザいんだよ」
また人懐っこく笑う彼は、「彼はとてもトリッキーな選手」と続けた。
「ミスがものすごく少ないし、どんなに打っても決まらない。機を見て、僕が予想しないタイミングでビッグショットも打ってくる。とにかく……イラっとしちゃうんだ」
表彰式での西岡は、シャポバロフの言葉を受けて「ウザいと言ってもらえて嬉しい。次もそうしちゃうよ」と笑顔で返す
対する西岡は、「シャポは、勝てる可能性のある選手だと思っていた」と、試合後に笑みを広げる。
途中、手も足も出ないビッグショットを決められるも、「緊張感の中でこれを続けるのは難しいはず」と思うと同時に、「これが入り続ければ、彼が優勝するだけ」と割り切った。
この割り切りこそが、手にするカードはすべて使い切っているという、西岡の矜持だろう。
二度目のツアー優勝を手にした日本人選手は、錦織圭に次いで二人目。
奇しくも、錦織もツアー初優勝から二度目まで4年を要し、その後、タイトル数を12まで伸ばしている。
27歳でキャリア最高位を更新した西岡の、最高の時はまだ先に待っていそうだ。
西岡良仁(にしおか・よしひと)
1995年9月27日三重県生まれ。2017年のマイアミオープンで前十字靭帯断裂の大けがを負うが、再建手術を経て復帰。今季は7月のシティオープンでも準優勝。今週のランキングで自己最高位の41位を記録。
西岡、マイアミOPで見せた“技”
【内田暁「それぞれのセンターコート」】