193㎝の長身に、伸びた髪を後ろで束ねた形良い小さな顔。
16歳の坂本怜は、今回の全米オープンでジュニア部門デビューを果たし、初戦を突破した有望株だ。2回戦では第13シードに敗れるも、試合中盤からは十分互角に渡り合った。
しなやかなフォームで打ちおろすサーブは、角度がありバウンド後も高く弾む
その彼に「写真を撮らせてください」と声を掛けると、「あ、もちろんです。嬉しいです」と爽やかな返事。
では……パシャリ。
なんと言ったものか言葉に窮していると、
「あ、普通にですか? すみません」
では、と気を取り直して、パシャリ。
…………。
二度も同じ手に引っかかった自分のうかつさを呪いつつ、「もう良いよ」と半ば拗ねた末にようやく撮らせてもらえたのが、トップに使った一枚である。
坂本は今年2月から、錦織圭や西岡良仁を輩出したことで有名な、“盛田正明テニスファンド”の奨学生として米国フロリダ州のIMGアカデミーを拠点としている。
盛田ファンド・IMGアカデミー常駐コーチの山中夏雄も、「良いキャラでしょ? 盛田さんも、ああいう子が好きなんですよ」と相好を崩した。恵まれた体躯に加えて、物おじせず人懐っこいキャラは、確かに日本の枠に収まらぬスケール感を漂わせている。
とは言えコート上のプレーは勤勉で、テニスについて語る口調は真摯。
「サーブがあって、でも、意外とシコイ。シコさが、坂本怜のいやらしいところで」
それが、本人が語る“坂本怜評”。ちなみに「しこる」とは、テニスの俗語で「粘り強い」のような意。安定したストロークで、ミスなくラリーをつなげるスタイルを指す。
そのテニスで坂本は、昨年は中学生テニス選手権で、日本の頂点に立った。
ベースラインから確実に打ち返す安定のストローク。初戦のマッチポイントも長いラリーで制した
ただIMGアカデミーに来てからは、攻撃力の向上に努めているという。きっかけとなったのは、錦織圭からの助言。
「錦織さんと練習させてもらった時、『もっと攻められるボールがあった方が良いよ』って言われたんです。『僕だったら、それだけ背のある選手に攻めてこられたら、嫌だな』って」
その錦織をはじめ、IMGアカデミーではトッププロとボールを打たせてもらう機会を既に得た。また、彼らの練習やトレーニングの姿を間近に見るだけでも、とてつもなく刺激になるという。
坂本がそもそもテニスを志したのも、そしてIMGアカデミーに行くことを望んだのも、錦織への憧れが原点にあった。
「小さいころに錦織選手をテレビで見て、『すっげー!』と感動して夢をもらって、希望をもらって。そういう自分がもらった刺激や夢を、日本のジュニアやいろんな人に、発信できる選手になりたいですね」
そう語る表情は穏やかで、目には凛とした光を湛えていた。
坂本怜(さかもと・れい)
2006年6月24日生まれ、愛知県名古屋市出身。6歳からテニスを始め、小学4年生の時に多くのトップジュニアを輩出するチェリーTCで腕を磨く。世界トップ選手になるべく今年2月より拠点を米国のIMGアカデミーに移す。
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