18歳アルカラスの史上最年少優勝で幕を閉じた、マイアミオープンの男子シングルス。
新星が瞬いた大会にあって、一人の日本人選手が復活の足掛かりを得ていた。
西岡良仁だ。
「負けたのは、運だと思っています。同じ展開の試合が10回あったら、9回は僕が勝てたんじゃないかと思うので」
世界44位のロイド・ハリスとの3回戦。6-7,6-4,5-7の激闘の末に敗れた西岡は、サラリとそう言った。
この言葉が、負け惜しみでもなんでもないことは、数字が雄弁に物語る。
時速200km越えのサーブを次々打ち込むビッグサーバーのハリスに対し、西岡が手にしたブレークチャンスは9回。そして、相手に与えたブレークチャンスは、わずかに1つ。
ただ……その唯一のブレークチャンスは相手のマッチポイントであり、それを奪われただけで……。
それでも、サーブ速度は180km前後ながら、17のサービスゲームのほとんどを簡単にキープしたパラドックスにこそ、西岡という選手の強さが凝縮されている。
ハリス戦で、アドサイドからワイドにサーブを打ち、そこからの展開でポイントゲットの西岡
サーブに見せる、極意
「僕、サーブはゲーム感覚でとらえています」
これは3年ほど前に、西岡が口にした言葉。
彼がここでいう「ゲーム」とは、カードゲームやビデオゲームの比喩である。手持ちのカードを隠し持ち、もっとも効果的な局面で切る。
個々のサーブを”点”ではなく、試合全体を通した”線”として捕らえ、伏線をはりながら駆け引きを楽しむのが、西岡流”サービスゲーム”の極意だ。
例えばこれは、2回戦のダニエル・エバンス戦でのことである。
第3セット中盤の勝負どころで、西岡はセカンドサーブをセンターに打ち込み、相手が反応すらできぬエースを奪った。
ワイドに来ると信じ切った相手の、完全に裏をかいた痛快な一打。
試合後に、西岡はこう語った。
「ぜったい決まると思ってました。相手がフォアに回り込むのは分かっていたので」
この確信のエースに至る経緯は、こうである。
バックをスライスで打つエバンスは、可能な限りリターンはフォアで打ちたい。対する西岡は試合を通じ、バックで打たせることに注力してきた。
ただ西岡は懐に、“相手の読みの逆をつき、あえてフォアサイドに打つ”という切り札を忍ばせていた。
その切り札は、試合の局面的に最も効果的な場面で切られ、相手の心理面にも大きなダメージを与える。
「あれも駆け引きですね」
頭脳戦での勝利に、西岡は会心の笑みを広げた。
アメリカで取り戻した本領
3回戦のハリス戦でも、西岡は相手のバックサイドに高く跳ねるサーブを打ち、巧みにミスを誘っていく。
こちらも3回戦のハリス戦。相手のバックにスライスを掛けて打ち込み、リターンミスを誘う
昨年末から今年序盤に掛けては、自分のテニスを見失いかけたが、アメリカ遠征で策士の本領を取り戻した。
年末から続いた長い遠征も、この大会でいったん終了。
来たる赤土のシーズンに向け、「しっかりクレーで練習して挑みたい」と、明るい表情でマイアミを後にした。
西岡良仁(にしおか・よしひと)
1995年9月27日三重県生まれ。自己最高ランク48位。2017年のマイアミオープンで前十字靭帯断裂の大けがを負うが、再建手術を経て復帰。2018年にはATPツアー優勝も成す。
【内田暁「それぞれのセンターコート」】