自分がチームの中心になる。
その自覚が岩波拓也を飛躍させている。
「すごいタッチダウンパスでしたね」
DAZNで解説を担当していた戸田和幸は、そう言って、思わず唸った。
9月18日に行われたJ1第29節のセレッソ大阪戦の59分だった。酒井宏樹からのバックパスを受けた岩波は、一度、ボールを自分の前に蹴り出すと、次の瞬間、前線に向けてロングフィードした。
呼応するように汰木康也がゴール前に駆け出す。落下地点でボールを受けた汰木はトラップしてボールをコントロールすると、飛び出してきたGKをかわすように次のタッチでシュートを決めた。
アメリカンフットボールのタッチダウンパスになぞらえられたプレーを、岩波自身が解説する。そこにはいくつもの伏線があった。
「試合前日に対戦相手の映像を何試合か確認しているんです。セレッソの試合も2、3試合見て、サイドバックとセンターバックの間につけられそうな感覚があったので、毎試合、狙ってはいるのですが、特にあの試合は狙えそうな手応えがありました」
実際、練習でも試みていた形だった。
「汰木とは練習のときから、ああいうパスを狙っていて、初めて試合で成功させることができました。ファーストタッチから体の向き、キックの質も含め、すべてが狙いどおりだったと思っています」
汰木へのパスには、さらに伏線が張られている。
「実はあの場面では、汰木よりもひとつ外にいるアキ(明本考浩)に出すようなモーションを入れたんです。それによって、相手のサイドバックとセンターバックの身体が外に向いたので、その瞬間を狙いました。
実は前半にも1、2本長いボールを蹴っているのですが、そのときはアキに出しているんです。汰木が決めてくれたからこそフォーカスされたシーンですが、前半にアキに出したパスが利いたと思っています」
まるでストライカーがゴール前で見せるDFとの駆け引きさながらの心理戦を、センターバックである岩波は行っていた。
タッチダウンパスと表現されたふわりと落とすボールを蹴ることもできれば、レーザービームのように低く鋭いボールを出すこともできる。
38分にはやはり汰木に向けて、後方から強いパスを通してチャンスを演出していた。
「スペースに落とすボールは、それほど速さは意識していませんが、自分としては前半38分に汰木に出したパスのほうが満足感はありました。大外にサイドチェンジするモーションを入れて、相手がばらけたところで中央に速いパスを刺す。あれもセレッソ戦の3、4日前の練習で似たようなパスを汰木に出していて、その感覚が残っていたんです」
まさに練習は嘘をつかないことの表れである。
状況に応じて長短、さらには強弱のパスを使い分けることができる。ビルドアップこそが岩波の魅力だ。
「キックの種類をある程度、持てているのはセンターバックとして大きいし、相手DFを見てキックの種類を変えられることも自分の武器だと思っています。ただ、いくらそのパスに自己満足していても、受け手と合わなかったり、チャンスにならなかったりすれば意味がない。シーズン序盤はそうした状況も多く、自分のミスもあれば、ビルドアップがうまくいかない試合もありました」
自分にしかできないプレーをしたい。
常にそう自問自答し、追求しながらたどり着いた境地だった。
より目の前が開け、自信が確信に変わったのは、川崎フロンターレと対戦したYBCルヴァンカップ準々決勝第1戦だった。
前年度リーグ王者に対して、自分の縦パスが思うように通ったことで、手応えをつかむと同時に、本来の自分の姿を呼び起こしてもいた。
「ホームの川崎戦で手応えをつかんだとき、プロ1年目の自分を思い出したんです。当時は怖いものもなければ、プレッシャーもなかったので、積極的にパスを通そうとしていて、それが自分の武器になっていった。川崎戦で、そのときの感覚を思い出せたところがありました。
うまくいかないときというのは、ミスすることを考えているから、パスにも力が入らないし、パスがズレる。でも、ミスを恐れず前向きにプレーしているときは、たとえ相手の足にボールが当たったとしても、それが味方にこぼれたりして、いい方向に転がる。今の自分はそう思えている感覚があります」
また、チームメートへの信頼が、岩波の積極性に拍車を掛けてもいる。
「セレッソ戦は雨が降っていて、スパイクの中がぐちょぐちょだったこともあって、前半に縦パスを出したら、手前で相手に引っかかってしまったんです。でも、チームメートがすぐにボールを回収してくれて、カバーしてくれた。
この場面のように、たとえミスをしてもチームメートが助けてくれると思えるようになりました。練習から本当に周りがミスをしないので、厳しいボールをつけても大丈夫という安心感もあります。(平野)佑一にしても、(江坂)任くんにしても、そこからうまく展開してくれていますからね」
攻撃での貢献は、センターバックの本分でもある守備にも相乗効果をもたらしている。
「自分としてはセンターバックなので、攻撃よりも今は守備で評価されたいという思いも強いんです」
リーグ戦5試合連続で無失点を続けている要因について聞けば、岩波はこう答える。
「ラインコントロール。これに尽きると思っています」
芽生えたのはリーダーとしての自覚だった。
「これはセンターバックというか、僕の問題だったと思っています。キツい時間帯や苦しい時間帯になると、相手のバックパスに対して、なかなかラインを上げられない試合もあったんです。ラインを上げられないからプレッシャーに行けず、プレッシャーに行けないからボールを奪えず、ボールを奪えないから運ばれて失点してしまう。
でも、今はどんなにキツくても、絶対にラインを上げて、(最終ラインの)ほかの3人について来させようとすら思っています。それもルヴァンカップの川崎戦でつかんだ手応えだったんです。ラインコントロールをすれば前線からプレッシャーにいけて、後ろでボールを奪って、すぐに攻撃に移ることができる。距離感もいいので、狙いを持った守備ができる」
中央ではアレクサンダー ショルツと組む機会が増えている。
まだ日本語が堪能ではない彼に細かい指示を任せるわけにはいかない。その自覚が岩波を大きく成長させた。
「自分が中心でやれているというのではなく、自分が中心になってやる。毎試合の走行距離を見てもらえばわかるように、以前よりも走っていて体力的にはキツいところもありますが、自分たちから圧力を持った守備ができているから、前線の選手たちもプレッシャーに行けていると思っていますし、それが無失点にもつながっていると思っています。
セレッソ戦で自分がアシストしたパス以上に気持ちよかったのが、試合終盤に思い切ってラインを上げて、相手の攻撃陣3人くらいをオフサイドラインに置けたシーン。相手の縦パスが入った瞬間、相手の誰もがオフサイドで、ボールを追えないくらいの状況を作り出すことができたんです。そのときは、ショルツと顔を見合わせて『最高やな』って感じになりました」
“ほかの3人について来させようとすら思っている”——ディエンスリーダーとしての自覚があるがゆえの発言だった。
「自分がチームの中心にならなければいけないという思いは、今シーズンがスタートしたときから思っていたのですが、どこかなりきれていない自分がいました。いろいろと模索していくなかで、声を出すことやいいプレーをしようと思ったこともありましたが、自分ができること、今の自分に足りないことを考えたら、ラインコントロールが絶対的に足りていないと思ったんです。
何より今のチームは、センターバックのレベルが全体的に高いので、少しでも調子を落とせば、試合に出られなくなるという危機感もあります。基本的には、ターンオーバーで休むことすら嫌ですし、監督が休みを与えられないくらい絶対的な存在になりたいと思っています。そのためにも、自分の武器をもっと出さなければいけないですし、自分にしかできないことをこれからもやり続けていければと思っています」
攻撃ではチームの生命線であるビルドアップを担っている。
守備ではラインコントロールによりチーム全体を動かしている。
今、岩波は確かな自覚とともに、浦和レッズのディフェンスリーダーとして確かな前進をしている。確かな頼もしさとともに——。
C大阪戦ハイライト
※岩波のタッチダウンパスは3分53秒から
(取材/文・原田大輔)
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髪を後ろで結う大きくて逞しい男は、フード配達サービスであらゆる日本食に舌鼓を打ち、浦和の名物うなぎには感動すら覚えている。
「うなぎの焼き方には、2つのスタイルがあるんですよね? 白焼きと蒲焼きでしたっけ? 私は蒲焼きが大好きになりました。日本はすべてのものが信じられないくらいおいしい。アンビリーバブルです」
コロナ禍のなかで行動が制限されているものの、来日から1カ月、大きなストレスは抱えていない。
むしろ、驚くほど早く日本に順応し、スムーズにフィットしている。
今夏、母国デンマークのFCミッティランから浦和レッズに途中加入したアレクサンダー ショルツは、チーム合流からわずか6日後にリーグ戦デビュー。
8月14日のサガン鳥栖戦で終了間際から途中出場して雰囲気をつかみ、中4日で迎えた天皇杯の京都サンガF.C.戦では89分から守備固めの役割をきっちりこなした。
肩慣らしを終えたあとの働きぶりは周知の通り。8月21日の徳島ヴォルティス戦からはリーグ戦4試合連続で先発出場し、いずれもクリーンシートを達成している。
無失点はセンターバック一筋でキャリアを歩んできたショルツが、最もこだわるところだ。
「相手にボールを保持されて苦戦したりもしましたが、DFとして気持ちのよい試合が続いています。失点ゼロに抑えているのはゴールマウスを守る西川周作の力も多分にあると思いますが、ボックス内の守備力は向上しています」
センターバックでコンビを組む岩波拓也、槙野智章とコミュニケーションを取りつつ、高いラインを保ってコントロール。周囲との連係も良く、サイドバックが攻め上がったスペースを的確にカバー。リカルド ロドリゲス監督から求められる緻密な組織プレーには柔軟に対応している。
レッズの試合映像を見て、ずっとイメージトレーニングをしてきたのだ。
レッズと契約を結んだのは5月31日。コロナ禍の影響で入国が遅れたものの、母国で来るべき日に備えて準備してきた。リカルド ロドリゲス監督が求める守り方、ボールの動かし方など、さまざまな角度からチェックした。
「時間的に余裕があったので、しっかり勉強しました。入国後もクラブのサポートがあり、うまくコンディションを調整できたと思います。チームにもすっと馴染めました。同胞であるキャスパー ユンカーの助けもありましたし、何よりも日本人選手たちがみんなオープンで温かく迎え入れてくれたことは大きかったです」
試合中、自らのクリアミスでピンチを招き、メンタルが乱れそうなときだった。周囲からポジティブな声を掛けられたときには心底驚いた。
10年以上ヨーロッパでプレーし、今年10月で29歳を迎えるが、いままで経験したことがなかった。
「普通ならチームメートから厳しく叱責される場面です。それなのに『いいよ、ナイスクリア、良かったよ』と言ってもらえて……。信じられない気持ちでした。みんなのおかげで、私はより前向きにプレーできました」
探り探りの時期はセーフティーな守備を心がけていたが、周りのサポートにも後押しされて、徐々に持ち味を発揮できるようになってきた。
予測を生かしたインターセプトもそのひとつ。さほどスピードがないことを自認しており、相手よりも一歩でも二歩でも先読みすることに心を砕く。
攻撃を止めるだけではない。奪ったボールを味方につなげ、常にチャンスをつくり出すイメージを持っている。
理想とするセンターバックは、ドイツ代表のマッツ・フンメルス(ドルトムント)。
9月11日の横浜FC戦では、その潜在能力を垣間見せた。最終ラインの中央から関根貴大に鋭いスルーパスを供給。わずかに呼吸が合わなかったものの、大きな可能性を感じさせた。
「もう少しパスのクオリティが高ければ、直接ゴールにつながったと思います。前線にボールを供給できるところは私の特徴。まだ本来の力を100%出せていません。
もっとアタッキングサードにボールを運び、ゴールに直結するパスを出していきたいです。これまでは暑さで体力が削れてしまうことも多かったので、涼しくなってくれば、変わってくる部分もあると思います」
無論、簡単ではないことも理解している。Jリーグは想像以上にレベルが高く、センターバックにも相手FWが執拗にプレスを掛けに来る。
敵陣にボールを運んでも、守備陣の集中力は高く、穴は容易に見つからないという。
「判断が少しでも遅れると、パスコースは消えてしまいます。Jリーグのスピードに順応し、私自身もっとレベルアップしないといけないと思っています。私はフィジカルが重視されるデンマーク、ベルギーでも順応することで成長し、自分のスタイルを構築してきました。Jリーグでも同じです」
冷静な現状分析には謙虚な一面がにじむ。
昨季は欧州最高峰のUEFAチャンピオンズリーグに出場し、デンマークリーグでは年間MVPに輝いた。
キャリアを振り返れば、ベルギーリーグでも約6年に渡って活躍。それでも、おごった姿勢はまったく見えない。
真摯にサッカーと向き合い続ける姿勢は、プロサッカー選手としてプレーした父ケントの影響を色濃く受けている。
派手な実績はないが、国内で一歩ずつキャリアを重ね、ステップアップして行った生き様には尊敬の念を抱く。
幼い頃に連れて行ってもらった練習場での光景も忘れることはできない。懸命にトレーニングに取り組む姿をずっと見てきたのだ。
アレクサンダーほどの上背はなかったが、スピードを生かして守るセンターバックだった。プレースタイルは違うが、受け継いだものは多い。
「真面目で物静かなところは、父譲りだと思います」
いまでも父とは頻繁に連絡を取り、コミュニケーションを取っている。サッカーを見る目はいつも厳しく、褒められた記憶はない。
ただ、ショルツは知っている。時として言葉は必要ない。
「私がいいパフォーマンスを見せたときは、あえて何も言ってこないんです。それが父のスタイル。改善すべき点があるときだけ、言葉をかけてきます。試合後、父が無言であれば、それで私は納得します」
Jリーグでの勇姿はまだ直接、見せたことはない。すぐにでも招待したい思いはあるが、いまはコロナ禍が落ち着くのをじっと待っている。
遠く離れた国から見守る父に、強いレッズを見せるため、これまで以上に勝利に貢献していくつもりだ。
そして、目の前に迫る一戦に胸を高鳴らせていた。9月18日のセレッソ大阪戦は来日後、初めて埼玉スタジアムでの開催試合となる。
「浦和駒場スタジアムも好きですが、レッズがいつも戦うホームは埼スタです。キャスパーからも『あそこでゴールを決めるのは最高だ』と聞いていますし、すごく楽しみにしています。自分がどのようなプレーを見せるかよりも、私が望むのはチームの結果のみ。ただ、勝ちたい。それだけです」
謙虚で実直なデンマーク人は5試合連続無失点を誓い、静かに闘志を燃やしている。
(取材/文・杉園昌之)
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9月17日、リカルド ロドリゲス監督の定例会見がオンラインによって開かれ、9月18日に行われる明治安田生命J1リーグ 第29節のセレッソ大阪戦に向けた質疑応答が行われた。
今週のトレーニングについて聞かれた指揮官は、「より強度の高いトレーニングを行い、次の試合で必要となるゲームプランのトレーニングをした。1週間空くと、選手たちが体を休ませながらもしっかりとコンセプトを落とし込むことができるので、非常にありがたい。シーズン末まで力強い戦いをするためのトレーニングができればと思っている」と満足そうに語った。
C大阪について「監督が替わって非常に良くなった印象を持っている。ルヴァンカップでガンバ大阪に大勝したし、札幌戦も非常にいいゲームだったと思う。監督が替わって最も目立つ違いは、コンパクトな守備で、ラインの間が非常に狭くなったことだ」と分析した指揮官は、さらにこう続けた。
「水曜日にACLを戦っているので、フィジカル的なアドバンテージは我々にある。それをしっかり生かしていいゲームにして、勝利につなげたい。我々としては90分間しっかりとアドバンテージを生かした内容を見せたい」
3ヵ月振りに埼玉スタジアムでの試合になることを聞かれると、「埼スタの雰囲気が好きだ。そこでいいゲームをし、明日はしっかりと勝ち点3をと取って、ACL出場権獲得という目標に近づきたい。また、スタジアムにお越しくださるファン・サポーターたちも楽しめるようなエンターテインメントをお届けして、素晴らしい時間を過ごしてもらいたい」と久しぶりの埼スタを楽しみにしている様子だった。
残りのリーグ戦はあと10試合。指揮官は「高いパフォーマンスを発揮し続けて、取りこぼしをなくさないといけない。非常にハードなスケジュールだが、若手もしっかりとチームに順応しているのでチーム状態はいい。しっかりと戦いながら、目標に向かって勝ち点3を積み重ねていきたい」と会見を締めくくった。
ホームで行われる横浜FC戦は、明日9月18日(土)19時にキックオフされる。
(浦和レッズオフィシャルメディア)
「また言ってるんですか? 見てくださいよ、これ」
大久保智明の不満の矛先は、同じルーキーの伊藤敦樹と福島竜弥だ。
先週、ルーキーの仕事である片付けの場面をお届けしたが、大久保のいない場で、福島が「(一番やっていないのは)トモくん」と言えば、伊藤も「ガチでやっていない」と重ねていたのだ。
それを聞いた大久保が、弁明する。
そして、大久保に「でもいます、まだ若手が」とふられた田中達也が「もう若手じゃないよ。29歳だよ。来年には30歳ですよ」と言うと、さらにその後ろで睨みを効かせるベテランの姿が………。
さて、誤解のなきようにお伝えすると、この動画は先週の動画を撮影した直後のもの。この日、大久保はしっかりと『仕事』をしていました。
大久保は先週の動画を見た母親から注意されたそうだが、やることはしっかりとやっているので安心してください!
トモ、ごめんね‼︎
(浦和レッズオフィシャルメディア)
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C大阪との直近10試合の結果
ACL・浦項戦のC大阪のスタメン
前節・横浜FC戦のレッズのスタメン
AFCチャンピオンズリーグ出場圏内を虎視眈々と狙う6位の浦和レッズは9月18日、ホームに12位のセレッソ大阪を迎える。
8月9日のリーグ中断明け以降、浦和駒場スタジアムでの試合が続き、埼玉スタジアムでの開催は6月27日以来。現在、レッズは公式戦8試合連続負けなし。接戦で競り負けない強さがある。
YBCルヴァンカップではリーグ首位の川崎フロンターレと互角以上の戦いを繰り広げ、同スコアながらアウェーゴールの差で準決勝に駒を進めた。
前年王者を退けたことで、リーグ戦の戦いにも勢いが出てきた。前節の横浜FC戦では攻守両面ともに機能し、相手を寄せ付けずに完勝している。
J1第29節のC大阪戦での注目のひとつは、チーム最多の8ゴールを挙げているキャスパー ユンカーの起用法。横浜FC戦ではベンチからスタート。後半開始から小泉佳穂に代わって投入され、1-0で迎えた89分に追加点のきっかけをつくっている。
最終ラインの裏を突く動きなどで、攻撃に深みをもたらした。特に後半終盤の足が重くなってきた時間帯では、7番のスピードは効果的だった。
ただ、試合の流れに関係なく、一瞬のスキを突く得点感覚も備えており、ジョーカーとして起用するのはもったいない気もする。
1トップに江坂任、トップ下に小泉佳穂を配置する形が機能しているため、指揮官は頭を悩ますところ。"EKコンビ"を継続するのか。それとも、新ユニットの"EKKトリオ"を試すのか。興味がそそられる。
今節の相手は、ACLの激戦から中2日で乗り込んでくるC大阪。コンディションは言わずもがなだろう。
小菊昭雄新監督となり、高い位置からプレスをかけて、ハイラインで守るのがベース。相手が前から奪いに来れば来るほど、背後のスペースは空いてくる。
レッズからすれば、C大阪の足が鈍ったときがチャンス。パスの受け手も出し手も豊富。前節、今季リーグ戦初ゴールを挙げた汰木康也をはじめ、田中達也、関根貴大と走れるタレントがずらりとそろう。
出し手もミドルパスの名手である岩波拓也、意表を突くスルーパスを通す小泉とパサーにはこと欠かない。裏を突ければ、おのずとゴールは見えてくるはずだ。
一方、C大阪の抑えどころは左サイド。今夏、スペインから古巣に戻った乾貴士のドリブルは、Jリーグでもさっそく冴え渡っている。フランス帰りの酒井宏樹とのマッチアップは見もの。元海外組対決の行方は、勝敗を左右する一つの要素になりそうだ。
リーグ戦では4試合連続でクリーンシート。否が応でも集中力は高まる。
(取材/文・杉園昌之)
覚醒の予感が漂っている。
9月11日の横浜FC戦では、新境地を開くようなプレーを随所に披露。浦和レッズの汰木康也は、プレーエリアを問わずに存在感が増してきた。
今季のリーグ戦初ゴールは、目を見張るものだった。
ペナルティエリアの中央付近で相手のマークを外してフリーになると、小泉佳穂からの鋭いクロスを技ありのヘディングでゴールに変えてみせた。
本人は照れ笑いを浮かべながら居残り練習の成果が出たことを明かした。
「平川忠亮コーチが付き合ってくれたおかげです。キーパーを入れて、シンプルにサイドからクロスを上げてもらう形でしたが、練習ではまともに頭に当てることができなくて……。それなのに、あきらめずによく一緒に練習してくれたと思います」
手応えを得ているのは、ゴールの形だけではない。中央で仕事をする回数が増えていることを前向きに捉えている。
「外だけではなく、中でもいいプレーができています。その流れで、あのシーン(得点場面)も生まれました」
昨季までは左サイドのタッチライン沿いでボールを受けて、持ち味のドリブルを生かすことが多かったものの、今季は武器を有効に使える場所が広がった。
1トップの江坂任、トップ下の小泉とのコンビネーションがよく、中央付近でも頻繁に前を向き、仕掛けている。
横浜FC戦でも開始4分に真ん中から独力でペナルティエリア内に侵入し、シュートまで持ち込んだ。
61分にもボックス内の中央でパスを受けて、ドリブルでひとり、ふたりと抜き、好機をつくっている。
いずれもゴールにつながらず、「最後のところはずっと課題。もっとこだわってやっていきたい」と反省したものの、違いは生み出した。
「以前よりもドリブルを生かせるようになってきました」
密集したエリア内をするすると抜けていくドリブル姿は、いまをときめくイングランドのスターを彷彿とさせる。
今季、英国史上最高となる152億円(推定)の移籍金でマンチェスター・シティに加入したイングランド代表ジャック・グリーリッシュだ。
レッズのチームメイトからは「ぬるぬるしたドリブルが似ている」と言われており、本人も昨季のアストン・ビラ(イングランド)時代から注目している。同じ95年生まれで意識するところもある。
「動画を見ると、似たようなボールの持ち方をしているけど、グリーリッシュはゴールをばんばん決めている(昨季)。そこは参考にしたい」
開幕から21試合目。今季はチーム最多の4アシストを記録しているが、納得はしていなかった。
「ずっと、自分にゴールがほしいと思っていた。遅くなったが、やっと取れた」
点を取るイメージは、膨らんでいる。9月11日の1本をきっかけにラッシュが始まることを期待したい。
(取材/文・杉園昌之)
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WEリーグ開幕2連勝を狙う三菱重工浦和レッズレッズレディースは9月20日、浦和駒場スタジアムに昨季なでしこリーグ8位のノジマステラ神奈川相模原を迎えて、ホーム開幕戦に臨む。
第1節は敵地で皇后杯覇者の日テレ・東京ヴェルディベレーザに菅澤優衣香、塩越柚歩のゴールで逆転勝ち。昨季のなでしこリーグ女王らしい堂々たる戦いぶりを見せた。
序盤から細かいパスワークで敵陣に押し込み、積極果敢なプレスでペースを掌握。ハイラインの背後を突かれて、1失点こそ喫したものの、2点を奪う攻撃力は今季も健在だ。
攻守で八面六臂の活躍を見せたのは、東京五輪代表でもプレーした23歳の塩越。ハイプレスの急先鋒となり、しつこいくらいに相手を追い回した。持ち味のドリブルでも魅せた。1-1で迎えた88分、相手GKを背にしてこぼれ球を拾うと、迷うことなくくるりと反転し、ゴール右上へ。空いているシュートコースをしっかり狙っていた。
「パスの選択肢はなかったです。ターンできる感覚はありましたし、前を向けるなと思いました。あとは思い切り足を振るだけでした」
オープ二ングゲームから役者がそろい踏みで活躍したのは、次節に向けての好材料。昨季、得点王の菅澤が同点ゴールを決めれば、ベテランの安藤梢はフル出場でチームをけん引。守備を引き締めるセンターバックの南萌華、守護神の池田咲紀子も安定したパフォーマンスを披露し、最後まで粘り強く対応していた。
20日の駒場で注目したいのは、"N相模原キラー"のエースストライカー。昨季、菅澤はN相模原との2試合で、ハットトリックを含む計4ゴール。一昨季にも1試合で3ゴールを挙げており、まさにお得意様と言っていいだろう。
開幕からゴールをマークし、幸先の良いスタートを切った点取り屋は、次節にも意欲を燃やす。
「この勢いに次につなげていく。FWなので、点を取って、チームに貢献していきたいです」
2017年以降、ホーム開幕戦は4季連続負けなし。追い求めるのは結果だけではない。ピッチで戦う選手が楽しみ、観客も楽しませる。ここから女子プロサッカーが根付くようなフットボールを提供することを誓う。
エースは言葉に力を込めていた。
「一気に何かが変わるわけではないです。見ている人と一緒にWEリーグをつくりあげることができれば、と思います」
始まったばかりの連続ドラマ。続けて見ることで、きっと面白みも増してくるはず。月曜17時の2話目にも胸が膨らむ。
開幕戦ハイライト
(取材/文・杉園昌之)
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飛距離は抜群、コントロールは自在。バックスピンをかけて、芝生の上で止めるような芸当までできてしまう。
足でボールを扱うと、多種多様なショットを繰り出すことができるものの、ゴルフクラブを握ると、そうもいかない。
浦和レッズの岩波拓也はいま魅了されている趣味について、真面目な顔で話してくれた。
「ゴルフって、奥が深い。打ちっぱなしの練習場に行くと、年齢層、性別、体型などみんなバラバラですが、うまい人はうまい。それぞれフォームも違うのに球は飛んでいくんですよ。不思議やなと思います」
細身で筋力がないような人にも、腹回りに贅肉が付いて体が重そうな人にも適わないのだ。岩波はプロアスリートとして、冗談交じりに悔しさをにじませる。
「なんで、俺があの人よりも飛ばへんねん。なんで、俺があの人に負けてんねんって。でも、それがゴルフなんでしょうね。幅広い層が楽しめる魅力的なスポーツです」
ゴルフ歴は1年。コロナ禍のなか、チームメートたちがこぞって始めたことをきっかけに流れに乗った。
軽い気持ちで新しい世界に足を踏み入れると、どっぷり浸かってしまった。現在、ベストスコアは100程度。
「ここまで夢中になるとは思わなかったです。スコアはもっと伸ばせそうですが、集中力がなかなか持ちません。一度乱れてしまうと、なかなか修正できないんですよ。サッカーと通じるものがあります。集中力は本当に大事。ゴルフはメンタルスポーツです」
数字の目標はないものの、野望はある。レッズナンバーワンの座を狙うことだ。
「チームで最もうまい(興梠)慎三さんに勝てるようになりたい。この前、一緒にコースを回ったときは、6ホール目まで同点で、前半を終えた時点でも4打差、5打差くらいでした。
後半に差を広げられましたが、がんばれば、追い越せるんじゃないのかなって。けっこう粘れましたし、しっかり練習すれば勝つ可能性はゼロではないと思っています」
今季、ピッチで存在感がぐっと増してきた背番号4は、ゴルフでも先頭に立ち、チームを引っ張っていくつもりだ。
(取材/文・杉園昌之)
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以前、小泉佳穂がパス&コントロールのトレーニングに取り組んでいる様子をお伝えしたが、今回はアジリティ系の面白いトレーニングをご紹介。
パス&コントロールは小幡直嗣コーチ兼通訳の発案したトレーニングだったが、今回は石栗建フィジカルコーチが指導。
合図とともにジャンプしながらターンし、石栗フィジカルコーチが出すマーカーと同じ場所に移動する。
しかし、石栗コーチは小泉が移動すべき方向とは逆の手でマーカーを持つため、思わずそちらにつられてしまう。
「だまされたー」と頭を抱える小泉に対し、だました石栗フィジカルコーチはちょっとうれしそう。このトレーニングは体のアジリティだけではなく、頭のアジリティも鍛えられる。
選手たちはスタッフの考えた面白いトレーニングに日々鍛えられ、支えられながら、試合に向かっているのである。
(浦和レッズオフィシャルメディア)
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9月10日、リカルド ロドリゲス監督の定例会見がオンラインによって開かれ、9月11日に行われる明治安田生命J1リーグ 第28節の横浜FC戦に向けた質疑応答が行われた。
川崎フロンターレとの激闘を改めて振り返り、「ルヴァンカップは確かに劇的な突破だった。難しい試合になることは分かっていが、チームが非常にコンパクトで、みんなで走って、プレスをかけた。11人で攻撃し、11人で守れた試合で、奇跡的に次に進むことができた」と、チーム全体のパフォーマンスを讃えた。
連戦が終わり、久しぶりに1週間のトレーニング期間ができた今週は、「トレーニングができるということは、上積みを図る時間があるということ。戦術的なオプションを増やすことができる。次の試合に向けた準備の時間もより多く取ることができる」と、チームのさらなる進化を視野に入れていた。
横浜FCの印象を聞かれると、「フォーメーションが変わったり、新しい選手を獲得したりして、今季のJ1やルヴァンカップで戦ったときとはまた違ったチームになっている。生き残りを懸けて争っていて、名古屋やガンバにも勝っている。シーズン終盤にこういうチームと対戦すると、非常に危険だと思う」と好調な相手を警戒した。
明日の試合のポイントについては、「下位のチームとの対戦だと思われているが、簡単な試合ではない。ACLが懸かっているということをしっかりと認識しないといけないし、取りこぼしがあってはならない。
選手たちに話したのは、『この試合は戦術が40%、あとはメンタルが60%、もしくは70%パーセントくらい重要』ということ。9カ月かけてここまで来たので、残りの3カ月、ACLの出場権にチャレンジできることを楽しんでいきたい」と会見を締めくくった。
アウェイで行われる横浜FC戦は、明日9月11日(土)18時にキックオフされる。
(浦和レッズオフィシャルメディア)