センターバックのキック1本で、埼玉スタジアムからは感嘆の声が漏れる。
ピッチ中央右寄り付近から対角線上の左サイドへ矢のように飛んでいくサイドチェンジは背番号4の代名詞。浦和レッズの岩波拓也はJリーグ指折りの職人と言っても過言ではないだろう。
芸当とも言える"対角線キック"は、いかにして蹴っているのか。本人に直撃した。
「意識しているのは、蹴る前のファーストタッチ。まず蹴りやすいところにボールを置くことが大事です。周囲の状況をよく見て、ボールをどこに置くかを考えています。相手のプレッシャーが来ていれば、すぐに蹴れる場所にボールを置き、フリーの状態であれば、蹴り足の少し前に止めます」
良い準備を整えることは前提条件。ただ、パスは受け手がいてこそ成立するもの。味方の状況もしっかり考えないといけない。
「サイドチェンジのキック自体が難しいわけではないんです。蹴り方さえ覚えれば、蹴れるはずです。むしろ、ポイントはパスの受け手がスムーズに次のプレーができるかどうかが大事になってきます」
職人はとことんこだわる。キックひとつ取っても、奥が深い。
「ボールの速さ、回転の種類にも気を配ります。例えば、左サイドの明本考浩選手にパスを出すときに、マーカーが食いついてくると思えば、手前でひと伸びするような速いボールを蹴ります。
時にはアウトサイドにかけて裏へ出すこともありますね。僕は相手の状況をぎりぎりまで見ます。スペースが広大にあれば、どのようなボールでも通りますが、J1の試合ではそうもいかない。キックの種類を使い分けて、相手を外すようにしています」
多彩なキックを習得するためには、地道に蹴り込むしかない。岩波は小学生の頃からひたすらキック練習に励んできた。
「公園の網に向かって、毎日100本くらいは蹴っていましたね。5mくらいの近い距離から網の下側を狙い、低くて速いボールを意識していました。最初はキック力をつけることが大事。ボールをミートするポイントは、足の甲よりも足首付近。
僕の場合、そのほうがパワーを伝えることができました。強いボールを蹴ることができるようになれば、次は精度。公園の網に水風船やタオルをかけて標的にしていました」
キックの名手はフォームにも一家言持つ。トップチームの練習に浦和ユースの選手たちが参加したときには、必ずと言っていいほどアドバイスすることがある。
「うまく蹴るコツは左手(利き足とは逆の手)。僕は小学生の頃から意識していました。僕の蹴る前のモーションを見てもらえば分かると思います。斜め上に上げて、斜め下に下げる感じで体のバランスを取っています。
ボールをミートするタイミングで、左手をクロスするんです。左手はすごく重要。キックの種類、スピード、距離も調整できます。小学生でも中学生でも、夏休みにキック練習をする機会があれば、意識してほしいですね」
これぞ"奥の手"か。キックの技術、ここに極まれり。
岩波拓也キック集
(取材/文・杉園昌之)
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