表情を見れば、すぐに変化を感じることができた。それをきっと成長と呼ぶのだろう。
浦和レッズで4年目を迎える岩波拓也のことだ。
1-1で引き分けたリーグ開幕のFC東京戦。未来を感じさせるリカルド ロドリゲス監督の初陣に、見ているこちら側の期待は否が応でも高まった。だが、岩波は賛同しつつも首を横に振ったのである。
「内容が改善されたゲームができたとは思っています。相手の決定機といわれたら、思い出せないくらい少なかったとも思うんです。自分としてもサッカーをしていて楽しいという思いもありますし、開幕戦で表現できたことを続けていきたいとも思っていますけど、そればかりにフォーカスしすぎて、結果を見たときに何も残っていないというのではダメだと思うんです。
そこで結果を残していかなければならないのが浦和レッズというチーム。だから、勝ち点1を獲れたのではなく、勝ち点2を失ったことにフォーカスしていければと思っています」
変化はプレーにも現れていた。センターバック(CB)として先発したFC東京戦では、守備だけでなく、足元の技術を活かして攻撃の組み立てに参加していた。
「監督が代わって、ボールを大事にしていこうというコンセプトがある。それもあって、みんながボールをもらうときのプレーや連動してスペースを作り出そうとしてくれている。CBとしてはスペースがあるなかでの守備になるので、リスクもありますけど、自分たちが攻撃している時間が長くなればなるほど、準備をする時間もできますからね。
監督からは、ボールを受けるときの身体の向きやDFとしてはビルドアップの深さについても言われています。自ら相手をつり出すようにボールを運び、もちろんチャンスがあれば、一発でサイドチェンジも狙っていく。1本のパスで状況をひっくり返すプレーは特に意識していますし、開幕戦でも出せたと思っています」
まさにFC東京戦の岩波に目を奪われたのは、対角線に出される正確なロングフィードだった。
「そこは僕のなかでも強みだと思っていますし、『まずはそこ(遠く)を見てくれ』と言われているように、監督からも評価してもらえている部分。チームメイトも僕のロングボールを意識して、ひとりが動いて、もうひとりがおとりになる動きをしてくれている。FC東京戦でいえば、ヤマ(山中亮輔)とコウヤ(汰木康也)のどちらかがフリーになれていたかなと」
ボールを受ける前に確認し、パスをもらったときには異なる選択肢を探しつつ、間接視野で蹴っていると教えてくれた。間違いなく、岩波のビルドアップとロングフィードは今季の浦和レッズにとって武器になることだろう。
岩波に感じた変化はそこだけではない。
69分に小泉佳穂がレアンドロを倒してしまった場面だった。相手選手も集まり、やや険悪な空気が流れていたが、岩波がその輪に入ると、小泉をかばい、相手選手をなだめていたのである。昨季までは見られない光景であり、行動のように映った。
「今までは、もしかしたら自分がもめてしまうときの“中”にいることも多かったんですけど、今季は自分もチームをまとめる側になれればと思っているんです。チームメイトを守ることもできればなと。自分が試合に出て、チームの勝利に貢献できることが一番ですけど、ピッチ内外での振る舞いというのも意識できればと思っています」
その変化をやはり成長と呼ぶならば、きっかけは昨シーズンの自分自身にあった。岩波が明かしてくれた。
「昨季は自分自身の良さが出せない機会が多くて、試合に出られていても、ずっともどかしかったんです。チームとして結果がでなければ、自分のプレーに対しても納得できないことが多かった。振り返れば、ピッチ上で迷いがあったというか、ミスを恐れてプレーしていたんです。
少しでもミスをすると、その選手がフォーカスされてしまうように感じていて、僕自身もそうでしたけど、ミスをすると次の試合に出られなくなってしまうという思いがあった。だから、チャレンジするようなプレーがミスになってしまうと、次からはそのチャレンジするようなプレーをやめてしまっていた自分がいたんです」
自分自身でも本来のプレーができていないことは分かっていたから、試合を見返すことも避けていたという。見るまでもなく、自分のプレーが悪いことは、誰よりも自分が感じていたのである。
「消極的な選択をするから、さらにそれがまたミスを生むんですよね。思い切って縦パスを狙えたシーンでも、近くにいるボランチに出すことを選択してしまう。結果、そこを狙われてカウンターを食らってしまったり……。本来の自分の良さといえば、積極性であり、1番目を選択できることだったのに、2番目、3番目の選択肢を選んでしまっていたんです」
消極性がミスを招き、さらにプレーが消極的になっていく。そんな状況を打破する契機を与えてくれたのが、ユース時代に苦楽をともに過ごしてきた友人だった。
「今シーズンのお前は全然、よくなかったよ。見ていても、らしくないプレーばっかりだった」
意を決して言われたわけではなかった。日常会話のなかで自然に言われた。それだけに本音であり、本心だと分かって、岩波の心に強く突き刺さった。
「はっきりと言われたんですよね。悪気があって言っている感じでもなく、会話のなかでサラッと言われただけに、何気ないその言葉が心に響いたんです。その場では笑って会話を終わらせたんですけど、きっと応援してくれている人たちにも、そう見えていたんだろうなって思ったんです。だから自分の良さって何だろうって、今シーズンがはじまる前に考えて臨んだんです」
そうした本音で話してくれる友人が近くにいることも、岩波の確かな軌跡であり、財産だと感じた。背番号を「4」に変えたのも、自分自身が強く変わりたいと思ったからだった。
「昨季の自分のパフォーマンスに納得していなかったこともあって、何かを変えたいと思ったことが最初はきっかけだったんです。ただ、浦和レッズの背番号4といえば、(田中マルクス)闘莉王さんしかり、那須(大亮)さんしかり、今までチームの柱になる選手が背負ってきた番号。
在籍年数は少なかったかもしれないですけど、一緒にプレーした(鈴木)大輔くんがチームに与えた影響やパーソナリティーを尊敬していたので、軽い気持ちなどではなく、自分もこの番号を背負っていきたいなと思って決めたんです。背番号で何かが変わるわけではないですけど、背番号4をつけることで、少しでも自分のなかに責任感が芽生えたらいいなと」
相手チームのなかに飛び出していったのも、そうした決意の現れだった。プレーを思い返せば、後方でパスを出したあと、一目散に走って再びパスを受けられるポジションを取る岩波の姿を思い出した。本人は「スプリント回数を稼がないと」と言って笑ったが、一つひとつのプレーや行動が、成長として刻まれていく。
「監督からはポジショニングについても細かく言われていますけど、昨季の自分は相当、動いていなかったんだなと改めて実感しました。パスを出したら終わりというか。そうなってしまっていたんだなと。相手がプレッシャーを掛けられない距離に、まずはポジションを取る。そうすれば自分もチームも楽になりますからね。
そのためには前もって動かなければならないですけど、結局のところはどっちで楽をするかだと思うんです。そこに気づかされました。昨季の自分は動いていなかったし、積極性もなかった。本当にサッカーをしていなかったんだなって」
守備は当然ながら、ビルドアップやロングフィードは積極性の成せる業である。声を掛ける姿勢やチームメイトを守る行動は、リーダーとしての自覚である。
岩波は言う。
「まだまだ成長したいという年齢でもあるので、監督から任せられたすべての試合で貢献したい。そして、チームを鼓舞するような、チームに欠かせないような選手になることが、これからの目標でもあります」
こうやって一つずつ階段を登り、背番号4にふさわしい選手になっていくのだろう。岩波の表情に、その覚悟と決意を見た。
(取材/文・原田大輔)