浦和レッズのドリブラーとして名乗りを挙げているのがレフティーの大久保智明だ。
「ドリブルは自分自身を表現するもの。ただ、ドリブルはあくまで目的ではなく、点を取るための手段。そこに固執しすぎないように意識しています」
大久保のドリブルには独特の間合いとリズムがある。それを活かした縦への突破が最大の魅力でもある。
ちょうど夏休みということもあり、サッカー少年・少女の参考になればと、大久保流ドリブルの極意を教えてもらった。
まず説明してくれたのは、ドリブルに対する考え方だ。
「意識しているのは縦に突破するということです。そのうえで、相手の動きの矢印と相手の足が届く範囲を考える。相手によって、それぞれ違うので、まずはそこを把握して、相手の重心の逆を突くというか、背中を取りに行くようなイメージでドリブルしています」
矢印。相手の進行方向と自分の進行方向を違う方向に向けると考えればいいだろうか。
大久保はさらに矢印について詳しく説明してくれた。
「自分が相手を抜き切るタイミングに出る力が100だとして、相手にとっては足を出すタイミングが100だったとします。そのタイミングとタイミングが合ってしまうと、身体をバチンと当てられて止められてしまう可能性が高くなりますよね。
だから、相手が100の力を出す前に、自分が100の力に達して抜き切ってしまう。相手がボールを奪おうと自分に矢印を向けて走ってくる途中、ようするに相手の力が70とか80のうちに、自分の力を100にして、自分の矢印を相手と違う方向に向ければ抜き切ることができるかなと」
相手の間合いに入る前に、ギアを上げて抜き切ってしまう。相手と向き合ってすらいない感覚を持つことがポイントだとも話してくれた。
大久保は「そのプレーは、(アンドレス)イニエスタ(ヴィッセル神戸)が抜群にうまいんです」と力説する。
「イニエスタは相手と戦っている感じすらしないというか。相手がボールを取りに来るタイミングと、自分が抜けていくタイミングを合わせない。だから、するすると突破することができるんだと思います」
いかにして大久保は、そのドリブルを身につけたのか。サッカー少年・少女にとってはもっとも興味深いところだろう。
「僕はネイマールのプレー動画をよく見ましたね。それもドリブル集を見るのでなく、『ネイマール スピード』とかで検索すると出てくるのですが、ネイマールがサイドでスピードに乗った状態で相手を抜いて行く動画をよく見ていました。
それを見て、このタイミングで縦に行くのか、ここで相手のタイミングをずらすのかということをイメージして、自分自身の感覚を擦り合わせていきました」
練習としては、やはり1対1が効果的だという。
ただひたすら1対1をするのではなく、自分のボールタッチの感覚と自分の間合い(距離感)、スピードを知ることが重要だと話してくれた。
その感覚を自分自身が把握するために、相手がいることをイメージしながら、ひとりでドリブルすることも効果的だという。
また、大久保はこうもアドバイスを送る。
「身体操作のトレーニングをするのもいいかもしれないですね。例えば、手と足を違うように動かしてみたり、右手と左手で異なる動きをしてみたり。反射神経やダッシュ、スプリントも含め、自分の身体を思い通りに動かすことができれば、ドリブルだけでなく、すべてのプレーにプラスになると思います」
そして、力の抜きどころについても教えてくれた。
もしかしたら、ここが大久保流ドリブルの最大のポイントにして、最大の極意かもしれない。
「抜くぞ、抜くぞという姿勢を見せないことも大事だと思います。そうした殺気は相手も感じるもの。これも身体操作のひとつだと思うのですが、ダッシュするときも速く走ろうと考えて、全身に力を入れて、地面を力強く蹴ると、意外とスピードは出ていなかったりするもの。多少、力を抜くというか自然体で走っているときのほうがスピードは出ている。
ドリブルもそれと一緒で、抜こう、抜こうと身体に力が入っていると、抜けなかったりします。だから、スーっと行くような感覚を持ってプレーするほうがいいかもしれません。あと、自分は足でドリブルしているのではなく、お腹で進む感覚でドリブルしています」
力みすぎず自然体でドリブルし、相手ではなく自分の間合いで抜き切ってしまう。かつ足ではなく、体幹を使って身体全身でドリブルする。
サッカー少年・少女には、自分だけの感覚(間合い)を身につけるべく、この夏休みはドリブルの練習に励んでみてほしい。
大久保智明ドリブル集
(取材/文・原田大輔)
外部リンク