浦和レッズは9日、聖地の浦和駒場スタジアムで天皇杯2回戦に臨み、J3のカターレ富山を1-0で下した。
試合終盤までゴールを奪えずにやきもきするなか、こう着状態を破るきっかけをつくったのは、約3カ月ぶりに公式戦(エリートリーグ除く)のスタメンに抜擢された大卒ルーキーだった。
ドリブルの切れ味は、後半になっても落ちるどころか冴えるばかり。0-0で迎えた80分、左サイドでボールを受けた大久保智明は自陣からぐんぐんと持ち上がり、鋭い切り返しで一人かわすと、左足でキャスパー ユンカーへラストパス。
決勝点を決めた点取り屋の仕事ぶりはお見事だったが、局面を打開したドリブルも一級品と言っていい。
ただ、お膳立てした本人は、謙虚に現実を見つめていた。
「あれはアシストになるのか分からないけど、キャスパーの力に感謝したいです。何よりもチームの勝利が、評価につながると思っています。試合に勝てたことが良かったです」
しみじみと話す言葉には実感がこもる。4月はYBCルヴァンカップに6分出場したのみ。5月に限ってはリーグ戦、ルヴァンカップともに出場なし。
苦しい時期が続いてもブレることなく、練習から全力を注いできた。そして、ようやくつかんだチャンスである。
この日は、これまでにないほど積極果敢にドリブルで仕掛け、チャンスを創出。1対1には、絶対の自信を持っている。中央大学時代には居残り練習で現柏レイソルのCB上島拓巳と特訓し、ドリブルで抜く感覚とコツをつかんだ。1対1の映像を見返して研究するなど、徹底してこだわってきた。
意識するのは相手の重心を見て、逆を突くこと。富山戦では左サイドからのカットインもあれば、縦にも突破。ゴールシーン以外でも十分なインパクトを残した。
それでも、本人は何も満足していない。
「自分自身、他にもアシストや点を決めるチャンスはありましたから。もっと精度を上げていきたい。きょうはチームのために走って、動いて、戦うことを一番に考えていました。そうすることで、自分の良さも出てくると思っていました。きょうの試合をいいきっかけにしたいです。ここから、チーム内でいい競争をしていきます」
浮ついた様子は一切見えない。どのような状況でもひたむきに努力できることは何よりも強み。レッズのドリブラーは右利きはいるものの、左利きは大久保だけ。これまでのチームにはない武器にもなり得る。
大学時代に聞いた本人の言葉を思い出す。
「ボールを持ったときに、ワクワクするようなプロ選手になりたい」
6月9日の浦和駒場には、背番号21のドリブルに心を踊らせた人たちが数多くいたのではないか。
(取材/文・杉園昌之)
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