川崎フロンターレの三笘薫、横浜FCの松尾佑介、サガン鳥栖の林大地、コンサドーレ札幌の田中駿汰。いずれも昨季、浦和レッズからゴールを奪った大卒ルーキーたちである。
かねてから大学で4年間もまれた彼らは即戦力と言われてきたが、昨今の活躍ぶりは目を見張るばかり。そして今季、浦和レッズにも2年ぶりに大卒新人が2人加入した。いずれも開幕スタメンを狙えるほどの実力者と言っていい。
流通経済大から加わった伊藤敦樹は多芸多才。浦和ユース時代は主に攻撃的MFとしてプレーしていたものの、その印象はガラリと変わった。大学で苦手だった守備力を向上させ、ボランチ、左サイドバック、センターバックと3つのポジションで活躍。持ち味である正確なロングフィードに加えて、ボールを奪い切る力もつけた。
183cmの大型マルチプレーヤーとして評価を高め、念願の"帰還"を果たした。大学に入学後も、レッズへの思いを1日たりとも忘れたことはないという。
「レッズ以外は考えていなかったですね。レッズに戻るために大学に入り、努力してきましたから。もちろん、レッズの試合も見ていました。僕の場合は、幼い頃からずっとですけどね」
物心ついた頃からレッズは、心のクラブだった。熱心に応援する親に手を引かれて小学校1年生の頃から会場に足を運んだ。2006年のリーグ初優勝も記憶に残っている。最も感銘を受けたのは、2007年のACL制覇。決勝はスタジアムに駆けつけた。
「あの埼スタの雰囲気はすごかった。まだ9歳でしたけど、鮮明に覚えています」
根っからの“浦和っ子”なのだ。プロ1年目から懸ける思いは強い。レッズユースから流経大という同じキャリアを歩んでプロとなった先輩は、目標のひとつにしている。
「宇賀神(友弥)さんは1年目の開幕戦から出て、それ以降もずっと活躍しています。尊敬する存在ですが、超えていきたいと思っています。僕も1年目から試合に出続けたい」
ルーキーイヤーからレギュラー奪取に燃えるのは、中央大から加入した大久保智明も同じ。大学の4年目はケガを完全に治すためにほとんど棒に振ったものの、それもこれもJリーグの開幕戦を見据えてのこと。170cmの小さなドリブラーは、自信をみなぎらせる。
「コンスタントに試合に出て、チームを引っ張っていけるくらいになりたい。22歳という年齢はもう若くないです。物怖じせずにどんどんいきたい」
中央大では東京ヴェルディの育成組織で培った鋭いドリブルにさらに磨きをかけた。2学年上の先輩である上島拓巳(現柏レイソル)と毎週火曜日に1対1の練習を繰り返し、自信をつけたのは大きい。互いに助言し合いつつ、時間を忘れるくらいトレーニングに明け暮れた。
「間合いの取り方、緩急のつけ方、抜ける角度など、大きなディフェンダーと対峙する感覚をつかめました」
関東大学リーグでは大学2年時の前期にデビューすると、すぐにスカウトたちの目に止まった。右サイドからカットインしてシュートもあれば、縦に抜けて正確なクロスも上げる。まさに無双。3年時の始めには、複数のJ1クラブから声がかかるようになっていた。正直、悩んだ。
「レッズを選びたい気持ちはありましたが、プロは試合に出ないと始まりません。怖さがあったんです」
それでも、ある人に相談してから迷いは吹っ切れた。中央大OBでレッズユース出身の須藤岳晟(現クリアソン新宿)である。大学1年時に主将を務めていた尊敬する先輩の言葉は、心にぐっと響いた。
「男は覚悟だ」
その後、3年生の夏にいち早く仮契約を結んだのは周知の通り。大久保は須藤との会話の数々をノートにしっかりメモしている。
<成功軸より成長軸に目を向けろ。成功に捉われるよりも、日々いかに成長していけるかを考えないといけない>
チームが始動し、プロとしての一歩を踏み出した今も心に留めているはずだ。毎日の練習を疎かにはしない。トレーニングから全力で取り組み、1年目からブレイクすることを誓う。
「10ゴール、10アシストが目標です。不可能な数字ではないと思っています。試合に出れば、1回は決定機がきますので。そのワンチャンスを仕留められるかどうか。そこにこだわっていきたいです」
頼もしい大卒新人コンビが、新生レッズをより面白くしてくれる。
(取材/文・杉園昌之)