カップ戦やJエリートリーグで結果を残した選手がすぐにリーグ戦のスタメンに抜擢され、日替わりでヒーローが生まれている。
現在の浦和レッズのチーム内競争は、理想的と言っていいだろう。
そんな活気あふれるチームを見るにつけ、ファン・サポーターの中には、こんなことを思っている方々が少なくないはずだ。
プロ2年目の武田英寿は、どうしているのだろうか――。
プレシーズンの練習試合では、戦術が浸透しておらず苦しむチームにあって、5ゴールをマークして気を吐いた。
開幕スタメンは逃したが、4月3日の鹿島アントラーズ戦で4-1-4-1のインサイドハーフとして先発すると、チームが上昇気流に乗るきっかけとなる勝利へと導いた。
ところが、3試合連続スタメンとなった4月11日の徳島ヴォルティス戦の11分に負傷交代すると、5月19日のYBCルヴァンカップの横浜FC戦で公式戦復帰を果たしたものの、出番がなくなってしまった印象だ。
もっとも、武田はこんな風に捉えている。
「ケガはもう大丈夫です。自分ではチャンスを与えられていないとは思っていなくて。横浜FC戦、(5月30日の)名古屋(グランパス)戦で出場機会をもらったのに、それを生かせなかった。それに尽きると思っています」
前述したように、今季の武田はプレシーズンから好調を維持していた。
シーズン開幕を2週間後に控えたJ2のSC相模原とのトレーニングマッチでもスタメンだったため、開幕スタメンに予想するメディアも少なくなかった。
「僕自身も、『開幕、あるんじゃないかな』と思っていました。そうしたらベンチで、その後も出場時間が多くなかったので、『あれ?』って。
ただ、キャンプの頃はリカルド(ロドリゲス)監督のサッカーがまだ浸透していなかったし、自分が決めたゴールもこぼれ球だったり、奪ってからのショートカウンターだったり、今とは形が違うゴールだった。自分のポジションも(今とは異なる)右でしたし、プレシーズンの活躍は関係ないかなって、思っています」
途中出場が続くなか、ポジションを右サイドからインサイドに移した武田がチャンスをモノにするのが、3月28日に行われたJエリートリーグの北海道コンサドーレ札幌戦である。
この試合で武藤雄樹とともに攻撃を牽引した武田は、6日後の鹿島戦のスタメンに抜擢され、リカルド ロドリゲス監督の信頼を掴み取る。
そんなときに武田を襲った、徳島戦での痛恨のケガ――。
しかし、武田は自身に起きたことを、冷静に受け止めていた。
「あのとき、自分のミスでボールを失って、取り戻しに行ったときにファウルを受けて負傷したんです。だから、自業自得というか。自分がミスをしなければ、ケガもしなかったと思うので仕方がないなって。早く治そうって切り替えられましたね」
野崎信行トレーナーの懸命なサポートにより、負傷から約1カ月後の5月10日、Jエリートリーグの横浜F・マリノス戦で実戦に復帰する。
この試合で武田は1ゴールをマークした。
こうして5月19日の横浜FC戦と5月30日の名古屋戦でスタメンのチャンスを手繰り寄せたものの、自身も認めているように、結果を残せずに終わった。名古屋戦は至ってはハーフタイムでベンチに下がることになってしまったのだ。
「名古屋戦は自分たちのサッカーができない難しい状況だったんですけど、自分が交代させられたのは、ボールを失ったり、守備のところで問題があったので、自分の責任だと思っています」
その問題について、武田がさらに続ける。
「サイドに追い込むことは、うまくやれていると思うんですけど、強度のところは他の選手より足りないかなと。あと、キャスパー(ユンカー)と2トップで守備をやるとき、うまくコミュニケーションが取れなくて、難しかったですね」
もっとも、出番を得られない状況をネガティブに考えるほど、幼くない。
この状況こそチャンスと捉え、貪欲に学んでいる。
「(小泉)佳穂くんのプレッシャーの掛け方とか、ボールの引き出し方は観察して学んでいますし、ポゼッションする際、どういう立ち位置を取ればいいのか、どういう風に引き出せばいいのか、コーチのナオさん(小幡直嗣)、(田中)達也さん、佳穂くんとはよく話します」
さらに、武田は力強く、こう言った。
「勉強になることはたくさんあるなって思いながら見ています。でも、だからと言って、負けているとは思わないです」
6月25日には、柏レイソルから江坂任の獲得が発表された。江坂の得意とするポジションはトップ下やシャドー。言うまでもなく、武田のそれと重なる。
さらに出場機会がなくなってしまうのではないか――。
そう感じてもおかしくないが、武田はキッパリと否定した。
「いや、僕はワクワク感のほうが強いですね。すでに一緒にトレーニングをやっているんですけど、やっぱりうまいし、練習で見せるコンビネーションだったり、楽しくやれるんじゃないかっていう気持ちです」
その3日後の6月28日には、青森山田中学、高校の後輩である藤原優大が、相模原へ育成型期限付き移籍をすることが発表された。
プロ1年目から新天地を求めた後輩の決断に、驚かされないわけがない。
「自分だったらすごく悩むと思うけど、1年目の夏から活躍の場を求めて決断した優大は、凄いなって思います。ずっと同じチームで一緒にやってきたから、離れるのは不思議な感じがしますけど、優大なら新しいチームでも自分を出してやっていけると思います」
武田には、出場機会を求めて武者修行に出るという考えはないのだろうか。
「試合に出て経験を積むことで学べることがたくさんあると思うので、この先どうなるか分からないですけど」と前置きしたうえで、武田はこう語る。
「ここでチャンスを掴むのが一番。今はそう考えています。リカルド監督はアピールした選手をどんどん使って、メンバーを入れ替えながら戦っていく。だから、日頃のトレーニングからアピールして、次に来るチャンスをモノにする。そのことしか考えていません」
その口調から、チャンスを手繰り寄せ、次こそはそれをモノにするのだという強い自信がうかがえた。
そんな武田にとって勇気となるのが、同じように出場機会を得られず切磋琢磨したチームメイトに、指揮官からチャンスが与えられた瞬間である。
6月9日に行われたカターレ富山との天皇杯2回戦では、今季の大卒ルーキーで、ここまで公式戦で4試合しか出番のなかった大久保智明がスタメンに抜擢された。
この試合でユンカーのゴールをアシストした大久保はその後、6月20日の湘南ベルマーレ戦、6月27日のアビスパ福岡戦と、リーグ戦2試合で先発起用されたのだ。
「トモくんは試合に出られなくても、常に全力でトレーニングをしていた。なかなか出られないなか、一緒にトレーニングしていた選手が試合に出るときは、より一層活躍してほしい気持ちになりますし、『次は自分も』っていう気持ちになりますね」
シーズン後半戦での巻き返しを誓う武田に、日本サッカー協会からあるオファーが届いた。
東京五輪の事前合宿を張る五輪代表チームのトレーニングパートナーに指名されたのである。
2024年のパリ五輪の中心選手として期待される武田に、大舞台に臨むチームから何かを感じ取ってほしい、ということだろう。
合宿は7月5日から始まるため、トレーニングパートナーを務めればリーグ戦1試合と天皇杯を欠場することになる。しかし、武田は参加を決意した。
「ヨーロッパでプレーしている選手などとトレーニングできる貴重な機会ですので、無駄にすることなく、これからの自分の成長につなげていきたいです。この経験をチームでの自分のプレーに生かして、8月以降の試合でいい結果を出せるよう、がんばります」
大舞台に挑む先輩たちとのトレーニングで、何を感じ取り、自身にどう取り入れるのか――。
中断明けの武田英寿から目が離せない。
(取材/文・飯尾篤史)