1月某日、浦和市内のホテルで期待のゴールデンルーキーを待っていると、大きなスーツケースを抱えた詰襟学生服の高校生が現れた。
顔をのぞけば、第98回の全国高校サッカー選手権大会で4ゴールを決めた青森山田高の武田英寿である。
丁寧な挨拶を済ませた後、個室のソファーに腰を下ろしてもらい、沖縄キャンプへの合流を控えた、いまの率直な思いを聞いた。
「正直、少し緊張しています」
全国高校サッカー選手権大会決勝では5万6025人が詰めかけた埼玉スタジアムで、堂々とPKを沈めた強心臓を持つ18歳も、さすがに気が張っているのだろう。それでも、意気込みは相当なものがある。
「1年目から試合に出るつもりで、キャンプから勝負していきたいです。試合に出てナンボだと思っています」
顔にはまだあどけなさが残るものの、世代屈指のプレーメーカーの言葉には自信がにじむ。いざスパイクを履いて、ピッチに入れば緊張は全くしないという。高校選手権でも観衆が増えれば増えるほど、モチベーションは高まった。
「浦和のファン・サポーターの前でも、早くプレーしたいです。高校時代、埼玉スタジアムはずっと目指すべき場所でした。そこがホームになるのは本当に楽しみです」
浦和から正式オファーを受けたときは、胸が弾んだ。幼い頃から憧れてきた日本指折りのビッグクラブである。2000年代、ワシントン、ロブソン・ポンテが躍動した黄金期の印象は強く残っている。
「僕の中でJリーグといえば、浦和。すぐに行きたいと思いました」
厳しいポジション争いは承知の上。日本代表クラスの選手がそろっているからこそ、やり甲斐を感じた。
「学ぶべきものがある」と胸を膨らませている。
ボランチでプレーするイメージを抱いており、特に同じ左利きの司令塔、柏木陽介からは多くのものを吸収したいという。
「タイプ的には僕と似ていると思います。運動量が多く、アイディアも豊富。鋭いパスを出しますし、いいお手本になると思います」
ルーキーシーズンとはいえ、勉強するだけで終わるつもりはない。
「すごいメンバーがそろっていますが、負けないようにしたいです」
高校選手権でも披露した左足から繰り出すキックは正確無比。ゲームを組み立てながら、ドリブルで果敢に仕掛けてゴールも狙う。
高円宮杯 JFA U-18プレミアリーグ(19年度)でも得点ランク2位の12点をマーク。直接FKを沈めたかと思えば、カットインからの左足シュート、クロスに飛び込むワンタッチゴールなど、多彩なパターンでネットを揺らした。
高校3年時からゴールをより意識するようになり、プレーの幅を広げた。長山郁夫スカウトは、それらの能力に太鼓判を押す。そして、何より評価するのは、状況を見極めて、最後の最後でプレーの選択肢を変えられるところだ。
「プロの水に慣れてくれば、テクニックは十分に通用する。1年目からでもやれると思います」
体の線は細く見えるものの、雪上トレーニングで鍛えた足腰はしっかりしている。
雪深い青森では冬時期の約1カ月半は、グラウンドが真っ白になる。雪に足が埋もれるなかでの練習は、きついフィジカルトレーニングになった。
守備力にはまだ課題が残るものの、それを補うだけの走力を培ってきた。献身的にボールを追い続ける姿勢は、大槻毅監督が求めるものとも合致する。
父親から元日本代表MFの中田英寿さんと同じ名前を授けられ、サッカーひと筋で生きてきた。
12歳で親元の宮城県仙台市を離れ、甘えが許されぬ中高一貫の青森山田で精神的にもたくましく成長。プロの世界で実力はまだ試されていないが、気持ちでは負けていない。
「やってみないと分かりませんが、理想は全試合に出ること。監督の戦術を理解し、考えてポジショニングを取り、周囲に合わせるのは得意としているところです。献身的にプレーし、チームを勝たせる選手になりたいです」
照準は、まず2月16日に合わせている。
ホームの埼玉スタジアムにベガルタ仙台を迎えるルヴァンカップの開幕戦だ。かつてジュニア(小学生)時代に所属した古巣でもある。
「初戦が仙台と聞いて、出たいと思いました。もし試合に出ることができたら、勝つだけ。楽しみにしています」
そこには、もう高校生の顔はなかった。
「将来は浦和レッズといえば、武田と言われるようになりたいです」
心はすでに浦和にある。
(取材/文・杉園昌之)
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