ヤンマースタジアム長居のタッチライン沿いで選手交代を待つ高卒ルーキーは、白い歯を見せていた。0-0で迎えた76分、長澤和輝とヒジでタッチをかわすと、18歳の武田英寿は笑みを浮かべながらピッチの中へ。8月5日、ルヴァンカップのセレッソ大阪戦で念願のプロデビューを果たした。
公式戦の初出場に向けて、ずっと準備を重ねてきた。課題だった守備の強度も上がり、練習からアピール。今回、大槻毅監督には戦力として認められてメンバーに招集され、試合前から心を踊らせていた。全国高校選手権のスターとして、青森山田高校から鳴り物入りで加入した男の肝は座っている。試合では緊張する素振りも見せず、ファーストプレーから堂々たるカットインを披露。右サイドから小気味よく中央へ切り込み、期待を抱かせた。
しかし、プロの現実はそう甘くない。ピッチに立った15分ほどの時間で爪痕を残すことができず、試合後のリモート会見では厳しい顔を見せる。
「自分が通用したと感じたところはないです。チャンスをつくれなかったですし、シュートも打てなかったので」
右サイドハーフのポジショニングについてもすぐに見つめ直し、自らの工夫が足りなかったことを反省した。そして、何よりも悔いたのはチームの結果だ。
「僕が入ってから失点して負けたので責任を感じています」
プロ1年目ながら言葉には覚悟がにじむ。今年1月、キャンプ前に詰襟学生服で取材に応じていたときから決意をはっきり口にしていた。
「個人として結果を残したいですが、一番はチームの勝利に貢献することです。1年目から献身的にやります。僕はずっとそうしてきました。そこにはこだわりがあります」
派手なデビュー戦ではなかったが、しっかり一歩は踏み出した。浦和の歴史を振り返れば、高卒1年目から活躍した新人たちは、そのほとんどがクラブ史に名前を残してきた者ばかり。1994年の山田暢久(藤枝東高出身)にはじまり、1997年の永井雄一郎(三菱養和ユース出身)、1998年の小野伸二(清水商高出身)、2001年の田中達也(帝京高出身)。
過度の期待は禁物かもしれないが、未完の大器には胸躍る雰囲気がある。
(取材/文・杉園昌之)