1月24日から2月7日までの沖縄キャンプで最も結果を残したのは、高卒2年目の19歳だ。今季初の練習試合となった沖縄SV戦で初ゴールをマークすると、2試合目の水戸ホーリーホック戦で2ゴール、3試合目のサガン鳥栖戦でも2ゴールを挙げた。2021年はチーム始動からトレーニングマッチ計4試合で5得点。手応えをたっぷり感じている武田英寿は、明るい表情をのぞかせる。
「点が取れる位置に入っていけるようになれました。そこで僕の武器であるシュートを見せることができ、得点力もアピールできたと思います」
持ち場は主に4-4-2、4-2-3-1の右サイドハーフ。左サイドからクロスが入ると、タイミング良くゴール前に入り、チャンスを確実にモノにした。沖縄SV戦のファーストゴールは、左サイドの関根貴大がマイナスに折り返したボールに左足で合わせ、ペナルティーエリア外からゴロでゴール左下のコースを突いたもの。バイタルエリアでのポジショニングに加えて、精度の高いシュート技術は目を見張るばかり。リカルド・ロドリゲス監督も舌を巻く。
「フィニッシュがすごくいいし、決定力が高い。チームのストロングポイントになる」
キャンプ前から武田は、シュートに活路を見いだすことを心に誓っていた。監督との個人面談では、自分の言葉ではっきりと伝えた。
「僕の武器はシュートです。左足であれば、どのような状況、どのような体勢からでも打てます」
合理的な思考を持つスペイン人指揮官は静かにうなずき、冷静に突っ込んできた。
「それで、ゴールはどうなんだ?」
もっともな指摘である。ただ、そこで口ごもることはなかった。むしろ、胸を張って応えた。
「昨年は練習試合、公式戦で取れなかったですが、僕はゴールも決めることができます」
根拠のない自信ではない。青森山田高校時代からシュート練習には時間を割いてきた。高校3年生のときに黒田剛監督から促され、ゴールの意識が高まったという。全国高校選手権では得点ランク3位の4ゴール、高円宮杯JFA U-18プレミアリーグでは得点ランク2位の12ゴールと結果を残している。
数字を出せなかったプロ1年目の昨季も、居残りの自主練習ではシュートを打ち続けていた。平川忠亮コーチにパスを出してもらい、武藤雄樹らとともにGKが構えるゴールマウスへ試行錯誤しながら蹴り込んだ。ただ一緒に汗を流しただけではなく、先輩たちのシュートをじっくり観察した。
「武藤さんのシュートコースは左右だけではなく、高さにもこだわっています。真ん中はほとんどなく、狙うのは下か上。しかも縦回転で落とす形が多いんです。ステップも小刻みでキーパーから読まれないようにしています。盗めるものはたくさんありました」
間近で見て学んだことを実践し、大原の練習場でゴールネットを揺らすたびに自信を深めた。自分の形に持っていけば、決められる――。ゴールの感覚はつかんでいた。
努力は裏切らない。沖縄キャンプでは地道にコツコツと繰り返してきた練習の成果が出る。
「シュートを打つときに焦ることはなかったです。練習どおり、試合でもコースに強く打ちました。簡単なことですが、しっかりボールを見て、蹴っています」
メンタル面が安定してきたのも大きい。昨年途中に赤茶色に染め上げた明るい髪も、少しばかり落ち着いた。オンライン取材で画面越しに見せる表情は、終始リラックスしていた。
「プロ2年目になり、気持ちがすごく楽になったんです。余裕を持てるようになったので、ミスを恐れずに積極的にプレーできていると思います。『特別に何かあったのか?』と聞かれると……。自分でもよく分からないですね」
あえて言語化しなくても、たくましくなった体が雄弁に物語っている。体重は入団時から約7kg増加し、現在は70kg。高校時代まであまり取り組んでいなかった筋力トレーニングに精を出した。スクワットに懸垂。ベンチプレスも上げれば、体幹も強化している。そして、栄養面に気を使うことも忘れない。
「筋力を付けたことでプレーの強度が高くなってきました。この1年で守備面は特に変わったと思います」
新体制下でも、素早い攻守の切り替えは必要十分条件。チームのタスクをこなしつつも、持ち味である攻撃的なプレーを出せるようになってきた。J1リーグの開幕まで残り2週間。2月13日、埼玉スタジアムでのSC相模原戦は、レギュラー戦線に生き残る上で、重要なトレーニングマッチとなる。
「得点を決めて、またアピールをしたいです。結果を残し続けていけば、開幕スタメンの可能性もあると思っています」
試合映像は浦和レッズ公式YouTubeチャンネルにてLIVE配信されるため、ファン・サポーターの目も意識している。新チームへの期待はひしひしと感じており、その思いには魂のこもったプレーで応えるつもりだ。
「熱い気持ちを持って、全力で戦います。開幕したら直接、スタジアムに足を運びたくなるようなゲームを見せたいです」
ゴールへの意欲をたぎらせる2年目の武田は、ひと味もふた味も違う。今季こそレギュラーに定着し、勝利に導く存在になることを誓っている。
(取材/文・杉園昌之)