練習後に浅野雄也に取材したいなら、ミックスゾーンで「浅野くん」と声をかけるのが広島のルール。ところが、彼はいつも聞こえないふりをする。
「浅野くん」
もう一度、声をかける。
「もう、なんすか(笑)。質問は三つまでですよ」
トレーニングではどんな時でも100%集中。それが浅野雄也を成長させた要因(10月12日撮影)
このやりとりは、今やお約束。そして質問はいつも、三つでは終わらない。そして最後はいつも「点をとる」で終わることもまた、お約束だ。得点への意欲は、浅野がダントツのチームトップ。その姿勢が、森﨑浩司や久保竜彦といったクラブレジェンドたちの期待を集める要因である。
ただ、期待は得点意欲だけではない。久保氏は彼が決めた名古屋戦(10月3日)のゴールを見て、驚愕した。
「まるで、ロナウドみたいだ」
2002年ワールドカップで得点王をとり、バルセロナやインテル、レアル・マドリードで活躍した怪物FWと何が似ているのか。それはキックモーションの短さとスピードだと久保氏は言う。
「キックモーションが短くても速いから、ロナウドのシュートは鋭いしGKもタイミングが合わせづらい。そういうシュートが打てるのは、日本人では浅野の他は大久保(嘉人)くらいじゃないですか」
ただ、これまでの彼はむしろシュートモーションが大きい選手だった。なのに、名古屋戦ではどうして。
9月21日の居残りトレーニングの映像。この時のシュートも決してモーションが特に短いという印象はない。この頃、浅野のシュート映像を見せても久保氏は「ロナウド」という評価はしていない。ここから大きく成長したのか、そもそも感覚を持っていたのか
「あの時はシュートを打つことだけを意識して、他は何も考えずに打ったんです」
そんな浅野の言葉を伝えると、久保氏は頷いた。
「考える前に身体が勝手に動いたんでしょう。それができるのは、身体の準備を整えていた証拠。あの振りを持っているのなら、結果は出る」
名古屋戦のようなシュートはその後、まだ見せていない。だけど久保竜彦に「ロナウド」と称賛された感覚を忘れていなければ、浅野雄也の次のゴールは決して遠くないはずだ。
浅野雄也(あさの・ゆうや)
1997年2月17日生まれ。三重県出身。日本代表FW浅野拓磨(ボーフム)は実兄。大阪体育大時代にFWからサイドハーフにコンバート。2019年に水戸加入後も主戦場はサイドで、このポジションでのプレーを認められて、2020年に広島移籍。しかし、城福浩前監督は浅野の才能を活かすためにサイドからシャドーにコンバート。時に最前線でもプレーさせて彼のゴール感覚に期待した。今季は22試合5得点。シーズン途中の負傷離脱が響いた。
関連記事
浅野雄也、意欲を剝き出し。「全員、俺についてこい」
【中野和也の「熱闘サンフレッチェ日誌」】