投入早々の88分、20歳の若者は強みを見せてくれた。
守備から攻撃に切り替わった途端、一気にスプリントを仕掛けて攻撃のためのフリーランを敢行。攻守の切り替えスピードは、土肥航大の武器(11月19日撮影)
いいポジションをとってボールを受け、塩谷司に預ける。そのまま前に出て、再びボールを受けると東俊希に縦パス。彼のクロスから「あわや」というシーンを広島はつくったが、その操縦桿はこの清水戦(11月20日)がケガからの復帰戦となった土肥航大が握っていた。
同じボランチのポジションを争う松本泰志とも土肥は仲がいい。それでも「泰志くんとは違う味が自分にはあると思う」と競争意識を口にする(11月19日撮影)
彼のストロングはまず運動量。昨年9月23日、リーグ戦初先発となった大分戦で彼は13.143kmの走行距離を記録。これは昨年の走行距離ランキングでリーグ12位、チームナンバーワンの記録だ。
だが、この若者の魅力は、他にもある。今年8月28日対大分戦、9月11日の対横浜FM戦。いずれの試合でも精度抜群のロングパスで東俊希を走らせ、得点の起点となった。視野の広さ、スペースを見極める目、左足の破壊力。そういうクオリティと運動量が両立している。それが、土肥航大の本質である。
攻撃だけでなく守備への貢献も忘れない。シュートに対して身体を張り、しっかりとシュートブロックにいく姿勢もいい(11月19日撮影)
その本質的魅力が露わになった横浜FM戦の19分、レオ・セアラから激しいタックルを浴びた際、右足を激しく捻った。プレー続行は不可能。悔し涙を流しながら、土肥はピッチを去った。
「中身の濃いプレーができていて、波に乗ってきたという時のケガだったので……」(土肥)
同期の鮎川峻(中央)は物静かで、にぎやかな土肥とは個性も違うが、広島ユース時代から共に苦境を乗り越えてきただけに、絆は強い(11月18日撮影)
今季は春先に左足首を負傷。半年近く痛みと闘ってきて、ようやく復帰できたと思ったら、またも負傷離脱。普通は、沈み込む。だが土肥は引きずらない。「ケガは仕方ない」と切り替え、別メニューでも太陽のような笑顔を忘れない。広島ユースの先輩である東の「復帰はまだ?」という言葉も「待ってくれている人がいる」と励みになった。実際、得点にこそならなかったが、後輩から先輩へのパスは、可能性を感じさせた。
「足の状態はまだ100%とはいえないけど、準備はできています」と語る土肥航大と東俊希がつくるレフティ・ホットラインがきっと、広島の未来を創ってくれる。そう信じていいと思っている。
土肥航大(どひ・こうだい)
2001年4月13日生まれ。大阪府出身。2018年、サンフレッチェ広島ユースの高円宮杯プレミアリーグファイナル優勝に大きく貢献。抜群の精度を誇る左足を利した攻撃的なプレーが得意だが、主戦場のボランチだけでなくサイドやトップ下でも輝きを見せるユーティリティ性も併せ持つ。明るい性格で人なつこく、誰とでも仲良くなれるオープンマインドな個性も彼の強みだ。
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