川浪吾郎は、いつも笑っている。笑顔の印象が強い大迫敬介よりもさらに、新加入のGKは笑っている。
実際、前所属の仙台でもムードメイカーとしてチームを盛り上げ、昨年の自粛期間中にはインスタライブを繰り返してサポーターを楽しませた。
だからこそ「どこに行ってもその飾らない真っ直ぐな人柄と明るさで、きっと愛される」と仙台サポーターは川浪の移籍を惜しんだのだ。
厳しいトレーニングだけが実力を養うことを12年目のベテランはよく知っている(1月25日撮影)
「いやいや、僕は根暗です。仙台サポが過大評価してくれただけ」
川浪はそう言って笑う。ただその笑顔の裏には、ピッチに立てない苦しさが存在する。
宮崎キャンプでさっそく、池田誠剛フィジカルコーチとマンツーマンで居残りトレーニング(1月25日撮影)
プロ入り後、川浪はJ1・J2合わせて11年間17試合出場。仙台での3年間は、1試合も出場していない。
「もちろん、常にピッチに立ってプレーしたい」
表情を引き締めた。
「ただ、諸先輩方の振る舞いから、腐っていても何も始まらないことを学んだ。どんな時も、チームのためにやるべきことを全力でやっていくだけ、と」
だからこそ、彼は常に準備ができている。
2016年の新潟時代、対広島戦で突然抜擢された時も、素晴らしいシュートストップを連発。不運な失点で敗れたが、確かな実力を証明した。
育成年代から彼をよく知る藤原寿徳GKコーチは「サイズがあり、状況把握能力が高いからゴールをしっかりと守れる。コミュニケーション能力が高く、戦術理解力も鋭い」と川浪の力を評価する。
プロ11年中J1在籍が8年半。人柄だけでできることではないと考える。
練習中、池田コーチに質問し、コミュニケーションをとる(1月25日撮影)
「(林)卓人さん、(大迫)敬介、マス(増田卓也)くん。みんなレベルが高く、練習でいつも学べています」
2年前まで広島の「ゴロー」と言えば稲垣祥(現名古屋)。今年からは川浪が「ゴロー」。2人に共通しているのは、笑顔の愛らしさ。そして謙虚な姿勢の裏にある力である。
川浪吾郎(かわなみ・ごろう)
1991年4月30日生まれ。茨城県出身。年代別代表に選出され続けるなど将来を嘱望された人材。2011年、柏U-18からトップチーム昇格。以降、岐阜・徳島・新潟・仙台と移籍し、2021年から広島に加入。192cmというスケールを活かしたシュートストップが持ち味。仙台を離れる時、「ベガルタに恋をしている。しかし求められる場所があるかぎり、挑戦したい」というコメントを発し、サポーターの涙を誘った。
【中野和也の「熱闘サンフレッチェ日誌」】