「打ち方やプレースタイルが、よく似てるよね」
長年テニスを撮影しているフォトグラファーや、テニスコーチから、そんな言葉を幾度も聞いた。
彼らが似ているというのは、今年の全仏単複優勝者のバルボラ・クレイチコバと、1998年のウィンブルドン単複優勝者のヤナ・ノボトナ。二人は同じチェコ出身であり、そしてクレイチコバは、2017年末に癌で世を去ったノボトナの最後の教え子だ。
個人的な思い出でいうと、クレイチコバのプレーを初めて見たのは、5年前のウィンブルドン予選だったと思う。見たいと思ったのは、ノボトナの教え子だからだ。
ただその試合でクレイチコバは、あっさり敗れる。
ノボトナの代名詞だった、サーブ&ボレーをする訳でもない。精神的な乱れもあった。
なぜノボトナが、この選手を——? 大変な失礼を承知で言うと、それが正直な感想だった。
ノボトナが亡くなった翌2018年、クレイチコバはダブルスで、全仏とウィンブルドンを立て続けに制する。
Katerina Siniakova & Barbora Krejcikova - junior champs here in 2013 - have come full circle.
— Roland-Garros (@rolandgarros) June 10, 2018
More on their title run at #RG18--> https://t.co/bTVI5YT6D8 pic.twitter.com/MScZDgUOAl
その時に彼女は会見の場で、ノボトナに師事した経緯を明かした。
「18歳になったばかりの頃、母の勧めで、手紙を手にヤナの家に行ったんです。家の庭で私たちを見たヤナは、『この人たちは誰?』と驚いてました」
それでもノボトナは、僅か2度の練習の後に、クレイチコバのコーチとなる。もしかしたら彼女のなかに、自分と通じる何かを見たのかもしれない。
今大会でクレイチコバに敗れた選手たちが口にした、彼女の強さが興味深い。
「彼女のボールはスピードがないので、自分から打ちにいかなくてはいけない。そして全力でこちらが打つと、カウンターを打たれてしまう」
そのようなクレバーなプレーが、識者たちが二人を「似ている」と言う理由だろうか。
ちなみに本人に尋ねると、次のような答えが返ってきた。
「私がヤナに似ていると聞くのは、ものすごく嬉しい。彼女の打ち方を真似しようと思ったことはないけれど、ヤナからはスライスをたくさん教えてもらった」
たとえ意識しなくとも、ノボトナの遺志や哲学は、クレイチコバの中に息づいていたようだ。
バルボラ・クレイチコバ
1995年12月18日生まれ。優秀なジュニアだったが、移行期で苦しんでいた時にノボトナの門を叩いた。ダブルスでまずは頭角を現し、シングルスでは昨年末から急成長。
【内田暁「それぞれのセンターコート」】