試合を支配しリードするも、追い上げを許し接戦になる——そんな彼女の試合を、過去に幾度か見た印象があった。
大変僭越ながら、そのことを当人に尋ねると、苦笑いと共に「自分もそんなイメージしかないです」の小さな声が返ってくる。
先の全日本学生テニス室内を制した阿部宏美(筑波大学3年・写真左。右は決勝の対戦相手・永田杏里)は、学生テニスの女王といって差し支えない。
1年生時には”大学王座決定戦”で母校を初優勝に導き、昨年は全日本学生選手権で単複優勝を成した。
ただそれらの実績にも関わらず、彼女の自己評価は常に辛い。
試合中に追い上げを許す理由も、「あまり良いプレーではないのに、リードしていることに不安を覚えてしまう」から。
そのため「リードしている時のプレーを続けず、相手に合わせてしまう」のだという。
もっともその課題は、ショットバリエーションが豊富で、プレーの選択肢が多いがゆえの悩みでもあるはずだ。
今大会の準決勝でも阿部は、第1セットを簡単に取るも第2セットを失い、第3セットでは4-1のリードから追いつかれていた。
永田杏里との決勝も、準決勝と似た展開に。セットを分け合い迎えた第3セットで、序盤戦を制し3-0とリードを広げた。
ここまでは、準決勝でも見た展開。
ただ違ったのは、ここからだ。
過去の反省点を踏まえ、攻撃的姿勢を貫く。
スライスも効果的に用い、手札の豊富さを生かして、相手に1ゲームも与えず頂点へと駆け上がった。
手前が阿部。スライスでリズムを変え、フォアを打ち分けて最後はウイナーを叩き込む
これで、学生タイトルはほぼ全て手中に収めた阿部だが、卒業後の進路は未定。
「普通に就職か、プロになるか。教職課程を取っているので、保険体育の先生になるか……将来の選択肢を増やしているところです」
選択肢が多いがゆえの迷いは、プレースタイルとも重なる。
現在「10点中、5か6の達成度」という自身のテニスが目指す姿に近づいた時、選ぶべき人生の選択肢も、自ずと見えてくるのかもしれない。
阿部宏美(あべ・ひろみ)
2000年5月2日生まれ、愛知県出身。高校3年生時にインターハイ単優勝。昨年のインカレでは単複を制し、今年は12月のインカレ室内も制する。
【内田暁「それぞれのセンターコート」】