「全豪オープンを取材したいなら、1月14日深夜にシンガポールを発つチャーター便に乗るしか選択肢はありません」
そう明記されたEメールが、オーストラリアのテニス協会から届いたのは、11日の早朝だった。従来の開催時期から3週間遅れ、2月8日の開幕が決まった全豪オープンだが、渡航者のスケジュールは直前まで揺れ動いた。
オーストラリアは厳しい規制を設けているため、政府の承認がなければ入国すらままならない。協会から「チャーター便を手配する」との連絡は年末に来ていたが、その予定通達が届いたのが、出発の3日前だったのだ。
入国のためには、PCRテストの陰性証明を含む複数の書類手続きが必要となる。
大慌てで全てを済ませ、14日に成田国際空港に着くと、そこにはラケットバッグを抱えた選手たちの姿があった。
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— 内山靖崇 / Yasutaka UCHIYAMA (@yasutaka0805) January 14, 2021
男子シングルス本戦に出場する西岡良仁や内山靖崇、女子の日比野菜緒に土居美咲……つまりは、選手を含めた日本からの全豪オープン関係者は、みな同じチャーター便でメルボルンに向かうのだった。
話を聞けば、直前まで渡航スケジュールが見えなかったのは、選手も同様だったという。
土居は、「本当はカリフォルニアで練習してから、コーチのクリス(・ザハルカ)と一緒にメルボルンに行こうと思ってたんですが、こんな状況になってしまったので」とスケジュール変更を明かした。
シンガポールのトランジットを経てメルボルン空港に着いてからは、意外なまでにスムーズに事は運ぶ。何よりホッとしたのは、フェースガードに防護服姿の空港職員たちが、「メルボルンにようこそ!」と明るく出迎えてくれたことだ。
事前提出の書類と照合し本人確認を済ませると、入国者はそれぞれの“隔離先”に向け、異なるシャトルバスに振り分けられた。選手の宿泊先は、練習場に応じて決まっているとのことだ。
ホテルに着くとルームナンバーが言い渡され、そこからは一人で部屋まで向かうことに。部屋の扉は大きく開いており、入って扉を締めたら最後、2週間後まで出ることは叶わない。ベッドの上に置かれている2枚のカードキーが、なんとも皮肉だ。
部屋に入ってから数時間たつと、ドアをノックする音がする。開けると、PCR検査員だった。検査は隔離期間中、毎日行われるという。
隔離生活に入った初日の夜――。
ロサンゼルスからメルボルン入りしたチャーター便の搭乗者から、コロナウイルス陽性者が出たとのニュースが流れた。同便に乗っていた人は、本来なら一日5時間の練習外出を許される選手たちもが、部屋から出られぬ完全隔離になるという。
同便の搭乗者には、土居のコーチ、そして錦織圭もいた。
ここまで厳重な対策をとっても、陽性者は出てしまう――厳しい現実を、着いて早々突きつけられた。
【内田暁「それぞれのセンターコート」】