長らく苦しんでいた怪我も癒え、全力でトレーニングに取り組めるようになった。
怪我の影響もあり、今季は公式戦に出場できていない。だから、ただ「なんくるないさ」と楽観的にはなれない。
それでも知念哲矢は、前向きに日々を過ごしている。
「今はいいコンディションづくりと自分の成長に時間を充てているイメージです。試合に出られないことは悔しいですし、楽観的ではありませんが、悲観的にはなっていません。なっても仕方ないと思っています」
怪我をしていた時期は苦しかった。ただプレーできないだけではなく、YBCルヴァンカップのグループステージや天皇杯など、チャンスがある試合に出るためのチャレンジすらできないことが苦しさに拍車をかけた。
「考えるのもしんどかったのです。無の境地で治るのを待っていました。今は治っても出られない苦しみがありますが、やっぱりサッカーができる幸せのほうが大きいです」
試合から遠ざかってはいるが、全力でトレーニングに取り組めば心身ともに疲労していく。2日間与えられた先日のオフは、リフレッシュのために箱根に出掛けた。
もともとアクティブなタイプであり、沖縄では休みのたびに海に行っていた。旅行は趣味のひとつだ。
「関東圏に住むのは初めてなので、行けるときに行けるところに行こうと思っています。知らないところに行ってみたいという欲があります。埼玉でも川越など、いろいろな場所に行きましたが、車で1、2時間で行けるようなところに積極的に行こうと思っています。
今回は箱根で1泊しましたが、宿泊した場所は落ち着いていました。有名な(仙石原の)すすきも見ました。沖縄にはきれいな海がありますが、こちらでは自然に囲まれることがなかなかないので、落ち着きましたね」
心は落ち着いた。ただ、アクティブな旅行好きにありがちな『罠』にも陥った。
「御殿場や熱海に行ったり、けっこう動き回りました。予定を詰め込み過ぎました。疲れましたね」
そう言って笑う知念に「今回のオフの旅行で得たものは?」と聞くと、「何やろう?」と真剣な表情でしばし考えたあと、ハッとした表情を見せた。
「夕方の帰りは道路がめっちゃ混む」
旅行先の出来事じゃなくて帰路の話かい、とつっこみたくなったが、旅行好きにとって移動の時間も大切なのだろう、知念はいたって真面目な表情で続けた。
「熱海から埼玉までずっと混んでいました。平日でしたが、ちょうど退勤のラッシュにぶつかってしまったんでしょうね。次の機会があればその時間帯は避けたいと思いますが……でも存分に楽しもうと思うとその時間になりますよね」
旅行先でも帰り道でも思わぬ疲労があったが、「だいぶリフレッシュできた」ことは言葉だけではなく、しばしば見せる笑顔からも感じられた。
そして取材中にたまたま続けて通ったアレクサンダー ショルツ、岩波拓也を指しながら言う。
「いいお手本がいますからね。その分、ポジション争いで勝つのは大変ですが、彼らのいいところを盗みながら、どんどん成長していきたいです」
冒頭では「楽観的」な意味として使ったが、「なんくるないさ」とは本来、「まくとぅそーけーなんくるないさ」の一部であるらしい。「人として正しいことをしていればなるようになる」という意味であり、言い換えれば「正しい道を進むべく努力すれば報われる」ということになる。
知念が「なんくるないさ」の本当の意味を知っているかどうかは確認できなかったが、「正しい道を進むべく努力すれば報われる」ことは分かっているだろう。
テツ、ちばりよー、なんくるないさー。
(取材・文・菊地正典)
外部リンク