NHKの「サッカーの園〜究極のワンプレー〜」という番組の、トリックプレーをテーマにした放送回で、小泉佳穂が紹介されていた。
取り上げられたのは、相手の勢いを利用して相手とクルッと入れ替わる“佳穂ターン”だ。
両足を同じように扱える小泉だからこそ、相手にどの角度からプレッシャーを掛けられても、相手から最も遠い位置にボールを置いて、左右同じように展開できる。
また、全身のコーディネイト能力が高く、敏捷性も備えているため、瞬時に入れ替われるのだろう。
相手は勢いに乗って小泉にアプローチしてくるから、入れ替わられた瞬間、置き去りにされることになる。
しかし、J1リーグでのプレーも2年目を迎え、小泉の得意技は分析されるようになってきた。
3月13日に行われた第4節のサガン鳥栖戦でマッチアップした小泉慶は、明らかに“佳穂ターン”を読んでいたし、ボールを奪えなければファウルで潰せばいいと割り切ってもいた。
相手の勢いを利用して入れ替わるわけだから、できるだけ近くに誘き寄せなければならない。必然、相手にとって接触可能な距離となり、置き去りにされるくらいなら、ガツンと潰してしまえばいい、というわけだ。
鳥栖戦ではいったい何度、ピッチの上を這わされたことか。
小泉佳穂の前には今、まごうことなき壁が立ち塞がっている。
“佳穂ターン”が分析されつつあることも、そのひとつ。自身のプレースタイルとチームから求められる役割の乖離もそのひとつだろう。
J2のFC琉球から加入した昨季、開幕スタメンの座を掴むと、瞬く間に主力となり、ビルドアップの出口となれるポジショニングやテクニックと相まって、シーズン前半戦で「代えの利かない選手」との評価を得た。
ところが、夏場に平野佑一が加入してビルドアップが安定したことに伴い、シャドーやセカンドトップを務めるようになったシーズン終盤、壁にぶつかった。
これまでどおりにビルドアップに加わりながら、ゴール前に顔を出す回数を増やそうとしたところ、自分のリズムを崩してしまったのだ。
安定したパスワークは小泉の武器のひとつだが、長めの勝負パスを増やした結果、それが相手に引っかかってリズムを崩し、強引にシュートを狙おうとして、またリズムを崩すことになった。
「プレースタイル的に僕はボランチ寄り、インサイドハーフなんです。FWの選手とか、10番タイプのトップ下じゃない」
そして今季も岩尾憲の加入により、小泉の役割はトップ下やシャドーとなっている。
もともと「考え込みやすく、悩みやすい性格」なのだという。
サッカーにおいて初めて壁にぶつかったのは、FC東京U-15むさしに所属していた中学生のころ。
「中2くらいから試合に出たり、出なかったりで、自分の中に確固たる自信があるわけではなかった。だから、強気になれなかった。でも、そこで自分を鑑みる癖がついたし、今でも自分をすごく疑う。自分が合っているのか疑うから、自信を失いがちだけど、そのおかげで成長できた部分もある」
今季に関しては、負傷のためにキャンプ後半を棒に振ったことで、まだコンディションが整っていない側面もあるだろう。
小泉が学生時代に憧れていたという中村憲剛氏や大島僚太も、最初からすべてのパスが通っていたわけではない。
中村も2010年〜2012年頃は伸び悩んでおり、プレースタイルやサッカービジョンが整理されたのは12年に風間八宏監督と出会ってから。大島も13年、14年の頃は中村や大久保嘉人氏に怒られ、助言を受けながら、自身のプレーを研ぎ澄ませていった。
勝負のパスが通らなかったら、相手に潰されてしまったら、おおいに悩み、悪戦苦闘しながら、チャレンジし続ければいい。
今、目の前にある壁を越えていけ――。
そのとき、チームも小泉自身ももう一段上のステージに行けるはずだ。浦和レッズの中盤に、進化した新8番の存在は欠かせない。
(取材・文/飯尾篤史)
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