まさに有言実行のゴールだった。
公式戦初ゴールとなった6月13日のYBCルヴァンカップのヴィッセル神戸戦でのゴールは、キャスパー ユンカーのプレゼントパスから生まれたこともあって、心の底から喜べたわけではなかった。
「おまけみたいなものというか、おこぼれなので、そこまで嬉しい気持ちではありませんでした」
だからこそ、小泉佳穂は「これからはもっと自分なりの形で得点を積み重ねていきたいと思います。一つはミドルシュートですね。ミドルシュートは決めたいです」と誓った。6月16日のトレーニング後のことである。
それから11日後のアビスパ福岡戦、待望のリーグ戦初ゴールは、イメージ通りのミドル弾となった。
11分、相手選手のタックルをかわして左足を一閃。ボールはゴール右隅に突き刺さった。
前回の対戦で敗れた相手に対して借りを返すことになったこの一撃には、小泉自身とチームの強みが表れていた。
前者は両足利きだという強み。
「どちらの足でも蹴ることができるのが自分の大きな強み。あの場面でもなんのためらいもなく、自信を持って振り抜けました」
後者はイメージの共有と連動性だ。
「あれはトレーニングでやっていますし、選手間でもよく話し合っているパターンでした。西(大伍)選手があの位置でボールを持って、田中達也選手がいい形でマークを引き連れて抜けてくれたことで、自分がいい位置でボールを受けることができた。ふたりと自分の一瞬の判断の共有ができた結果、相手を後手に回させることができたと思います」
待望のゴールまで半年を要したが、フィニッシュ以外に小泉が多くのタスクをこなしていることは周知の事実だろう。
ゴール前で決定的なチャンスを創出したかと思えば、中盤とユンカーをつなぐリンクマンにもなり、中盤の底まで下がってビルドアップのヘルプもする。
こうした活躍に、シーズン前半戦のMVPとして小泉を推すファン・サポーターは少なくないはずだ。
今では小泉がいるといないとでは、浦和レッズのサッカーが変わるほど。それはリカルド ロドリゲス監督も認めるところだ。
「フィールドの4分の3でのプレーでボールを失わず、チャンスを作ることができる。我々のチームスタイルの中で非常に大事な存在だ。彼がいないとその部分が少し難しいときもある。タメを作ってチャンスメークできる選手だと思っている」
もっとも、小泉がレッズに加入したばかりの頃、ここまでの活躍を想像した人はいただろうか?
加入時の立ち位置は、同じ左利きのプレーメーカーである柏木陽介のサブといったところだろうか。
小泉自身は、それすらも否定する。
「正直に言わせてもらうと、レッズの関係者の方も、ファン・サポーターの方も、陽介さんの控えとすら思っていなかったと思います。戦力になると考えている方はいなかったと思います。期待されていない分、ハードルが低かったので、やりやすかった面もあります。
トレーニングキャンプを過ごしているうちに、もしかすると出られるかもしれないと思い始めました。ただ、基本的に自信はあまりないですし、今もそうですが、やれるかどうか分からないと思いながら、自分にできることをやるしかありませんでした。そういった割り切った気持ちで臨んでいました」
自信があまりない――。
それは偽らざる本音だろう。
FC東京U-15むさしからU-18に昇格できず、前橋育英高に進んだものの、全国区の選手ではなかった。関東大学2部リーグの青山学院大でサッカーを続けたが、プロを諦めてサッカーを辞めることを考えていたほどだ。
当時J3だったFC琉球に練習参加して、なんとかプロへの切符を掴んだ苦労人。これまでのキャリアで自信を育めなかったのも無理はない。
夢は、やはり、日本代表になることだという。
「もちろん、一番目標にしているところですし、距離もすごく離れているようで、指がかかるところまで来ていると思います。その差がどれだけ大きいのかとも思いますけど、クラブでもっと圧倒的な選手になれば、自ずと見えて来るのかなと思っています」
遅咲きであるがゆえ、限りない可能性を感じさせるのも事実。この半年で、こんなにも成長しているのだから、修羅場をくぐり抜けて本物の自信を手に入れたとき、小泉はどんなふうに化けるのか――。
想像するだけでワクワクが止まらない。
では最後に、小泉佳穂のフォト・ギャラリーをどうぞ!
(取材/文・飯尾篤史)
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