埼玉スタジアムに並ぶ、もう一つの聖地・浦和駒場スタジアムのトラックで、子どもたちが躍動していた。
コスチュームの胸には浦和レッズのエンブレムが輝いている。背中には「RedsLand Sports club」の文字が描かれていた。両手にポンポンを持った子どもたちは、音楽に合わせて一生懸命にチアダンスを踊っていた。
4月29日に行われたWEリーグ第19節、三菱重工浦和レッズレディースの試合前、チアダンススクールがパフォーマンスを行った。それは浦和レッズが、そしてレッズランドが、地域との新たな形、つながりを示すひとつの結晶であり、未来だった。
Jリーグ百年構想にある「スポーツで、もっと、幸せな国へ」を具現化すべく活動を行っているレッズランドは2021年4月、「レッズランドスポーツクラブ」を開設した。
総合型地域スポーツクラブとして、「だれもがスポーツを楽しむことができる場を提供し、健康づくりを支援する」という活動理念を、地域に展開する一歩だった。
2020年10月にレッズランドに着任し、プロジェクトの担当になった塩谷剛史さんがその経緯を語る。
「2005年に仮オープンしたレッズランドは、2008年に株式会社レッズランドとして本格的に運営を開始しましたが、2017年に公益性を打ち出したホームタウンに根ざした活動を行うべく、一般社団法人に移行しました。より地域との関わりを増やすとともに、レッズランドとしても地域の人たちが運営していくものをサポートしながら、一緒に取り組んでいくことを想定していました。
一方で2019年10月に台風でレッズランドが水没する被害がありました。フィールドが使えなくなり、回復するまでにはさまざまな苦労がありましたが、少しずつ事業が復旧していくなか、かねてからの目標の一つだった総合型スポーツクラブとしての運営もはじめていこうという機運になりました」
レッズランドが設立された当初は「浦和レッズが蓄えてきた知見やリソースを地域に還元したい」という考えもあったが、時代の流れとともに、「一緒に地域を盛り上げ、地域にスポーツ活動を浸透させたい」という思いは増していった。
「地域の人たちにもっと気軽にスポーツを楽しむ場所と機会を提供したい」
ならば、レッズランドだけで活動を行っていくのではなく、自らが地域に飛び出していく。また得意分野であるサッカーだけでなく、さまざまな世代、ニーズに応える必要もある。総合型地域スポーツクラブを設立した背景はそこにあった。
スタートに当たって開設された教室は、現時点で6つ。バドミントン、バレーボール、ヨーガ、空手、マットや跳び箱などを使ったスポーツ教室、そして冒頭で紹介したチアダンスになる。
参加できる世代もさまざまで、スポーツ教室やチアダンスが幼稚園生から小学生を対象にしていれば、バレーボールは小学生から中学生まで、ヨーガは成人、空手は小学生以上、バドミントンは高校生以上を対象としている。
まさに多種目、多世代、多志向を目的とする総合型地域スポーツクラブである。
さらに上記のスクールは、いずれもレッズランドではなく、地域の小学校の体育館などを活用している。塩谷さんは、「学校の校長先生たちやPTAの方々を通じて、地域で活動している人たちや地域に理解のある方々に声を掛けさせていただきました」と教えてくれた。
「十分な施策ができているかと言われれば、まだまだなのですが」と謙遜するが、そうした指導者に声を掛け、実際に教室を開いていることもまた、レッズランドを通じて地域の活動をサポートし、地域の輪を広げているのではないだろうか。
活動をスタートさせて1年ちょっとになるが、バレーボールを筆頭にいくつかのスクールで参加者は増えてきている。
「地域の公民館などにチラシを置いていただいているのですが、見た方から参加の問い合わせをいただいたこともありました。活動している様子を見かけた保護者の方から参加の申込みがあったりと、日常のなかで出会いがあったことを感じたときには、少しは我々も地域に入り込むことができているのかなと感じたりもします」
レッズランドスポーツクラブは、競技のエリートを輩出するのが目的ではない。あくまで「新たにスポーツを始める、もう一度スポーツをやり直す、もしくはスポーツを通じて人と人がつながる環境を提供すること」(塩谷さん)がテーマになっている。
それでも、頑張っている子どもたちに練習の成果を披露する舞台を与えることはできないか。情報収集すれば、コロナ禍のため子どもたちのそうした機会は、特に失われていることを知った。そのひとつがチアダンスだった。
「チアダンスの原点としては、人を応援するということがあるように思います。そうした場面で、子どもたちがキラキラと輝く瞬間を作れないかと話をしていたんです。幸いレッズランドの中でレッズレディースが活動しているので、コミュニケーションも取りやすく、相談することができました」
過去にレッズレディースはそうしたパフォーマンスを行った経験もあり、WEリーグが創設され、プロリーグとしての興行に広がりを持たせるという意味でも思いは合致した。
こうして4月29日の試合前、レッズランドスポーツクラブチアダンススクールの子どもたちはパフォーマンスを披露することとなった。
「レッズランドスポーツクラブに入り、チアダンスをはじめた子がほとんどだったので、これまで大きな舞台で踊る機会はなく、最初は緊張していましたね。でも、逆に驚かされたのは、みんな、頼もしかったんです。本番が近づくにつれて、いい表情になり、本番が一番よかったと言われるほど、最初から最後まで堂々としたチアダンスを披露してくれました」
レッズランドスポーツクラブとしても、初めてスクールに通う生徒たちが成果を発表する機会だった。
「終わったときには、充実した顔をしていました。達成感があったのか、勢いよく戻ってきてくれましたから。そのあと、みんなでレッズレディースの試合を観戦しました。女性アスリートが活躍していることや今回、披露する場所を与えられたことが、その後の子どもたちの成長にもいい経験になればと思います」
レッズランドスポーツクラブを通じて地域の子どもたちがスポーツを楽しみ、そしてレッズレディースが主催する試合に一員として参加する。レッズランドが目指す、浦和レッズが目指す、地域との関わり方であり、広がりが具現化した理想の形に思えた。
チアダンスの模様を動画としてレッズランドのTwitterで紹介すると、現時点で1万回以上の視聴があったという。その反響もまた、スクールに通う子どもたちのモチベーションになり、レッズランドスポーツクラブの認知につながっていくのではないだろうか。
スクールの保護者から塩谷さんは言われた。
「この間、勝ちましたね!」
「この前の試合は残念でしたね」
レッズランドスポーツクラブを通じて、浦和レッズの結果を気に懸けてくれるようになった。
また、ある保護者からはこう言われた。
「今度、浦和レッズの試合を見に行こうと思っているんです」
レッズランドの活動が、レッズランドスポーツクラブの活動が、浦和レッズへとつながっている。
その会話もまた、浦和レッズが地域に根ざした活動を行っている結晶である。
(取材・文/原田大輔)