J3のガイナーレ鳥取でキャリアをスタートし、プロ10年目。6月26日で32歳を迎える馬渡和彰は今季、かつてないほどの逆境に立ち向かっている。
YBCルヴァンカップでは4試合に出場しているが、リーグ戦のピッチに立ったのは2試合で21分のみ。
「過去にも試合に出場できない時期はありましたが、リーグ戦のメンバー外が長く続くのは初めて。選手としては、悔しいですよ。メンタル的に厳しくても、プロサッカー選手という仕事をしている以上、ピッチの上で示さないといけないと思っています。練習の中でトライしていくしかないです」
5月24日に行われたルヴァンカップ第5節の川崎フロンターレ戦は、公式戦で7試合ぶりの先発出場。持ち味の鋭いクロスで好機をつくり、タイミングよく裏にも飛び出した。60分にピッチを退くまで、積極的にゴールを狙う姿勢を見せた。
たとえ、トレーニングで『先発組』に入ることが少なくても、モチベーションを低下させることはないという。むしろ、厳しい立場に立たされている自分に言い聞かせている。
「自らでコントロールできないことに対し、感情を揺さぶられない」
フォーカスしているのは、自身の成長だ。どれだけ年齢を重ねても、レベルアップできると信じている。守備力が足りないのであれば、真摯に取り組む。課題と向き合うことからは逃げない。
「僕はエリートではありません。ここまで、ずっとはい上がってきた人間です。いくつもの壁を乗り越えて、一段一段、階段を昇ってきましたから」
背番号6のユニフォームを掲げてくれるファン・サポーター、小中高とお世話になってきた指導者、関係者たちへの感謝を忘れたことはない。平日のナイトゲームでも観客で埋まるスタンドを見て、感じ入っていた。
「浦和のようなビッグクラブで1日でも、1年でも長くプレーしたい。あの声援の中でサッカーできるのは、選手として幸せなことですよ。僕はしがみつきたい。プロとして、いま努力を止めてしまえば、終わりなので。ここからまた、ピッチで躍動する姿を見せていきたいです。いや、見せないといけませんね」
自らの言葉を噛み締めつつ、頭に思い浮かべたのは家族の顔だ。J3時代から苦楽をともにしてきた伴侶はあえて「頑張って」とは言わない。いつもそっと見守ってくれている。
「妻は僕を信じてくれているので。僕のキャリア、もうひと山つくりますよ。苦しい時間も大切にします」
明るい笑顔を見せながら、泥臭くボールを追いかけることを誓っていた。
(取材・文/杉園昌之)
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