若さあふれる新加入組のなかでは、異質の存在感を放っている。
三顧の礼で迎えられたボランチは、プロ12年目の33歳。徳島ヴォルティスから期限付き移籍で加入した岩尾憲は、リカルド ロドリゲス監督から絶大な信頼を寄せられている。
「私のサッカーを一番理解していて、私の求めるものをすべて持っている」
2017年から2020年まで徳島でともに過ごした4シーズンは、年月以上に濃密なものだった。すぐに信頼関係を築けたわけではない。徳島でチームキャプテンを務めていた岩尾は当初、スペイン人指揮官の人柄を含めて、深く理解していなかったという。
「1年目はピッチでサッカーのことを話す以上の付き合いはなく、コミュニケーションも浅いものでした。2年目以降、良い時期だけではなく、悪い時期も乗り越えて、お互いを補完しながら一緒にチームをつくり上げるようになりました」
2人の関係性が大きく変化したのは、2018年の夏。シーズン途中に主力の4人が抜けて、危機的な状況に陥ったときだ。
徳島は難局を乗り越えるために外国籍のアタッカーを緊急補強し、指揮官は助っ人頼みのスタイルに舵を切る。
コンビネーションを生かした攻撃サッカーが代名詞だったものの、まさかのリアクションサッカーへの転換。8人で引いて守りを固め、攻撃は個の力に長けた助っ人コンビ頼みに。スペイン人監督が持ち込んだポジショナルプレーに共感していたキャプテンの岩尾は、戸惑いを通り越して憤りさえ覚えた。
リカルド ロドリゲス監督とはヒザを突き合わせて、正直な思いをぶつけた。
「僕はこういうサッカーをやりたくて、あなたと一緒にいるんじゃない。このサッカーを続けていくのであれば、リカルドじゃなくていい。僕はリカルドのサッカーが好きだし、もっとできるようになりたいと思っている。だから、いまのサッカーを続けていくのであれば、あなたと一緒にいる意味がなくなってしまう」
雨降って地固まるとはこのこと。2人の関係に亀裂が入ることなく、お互いを理解するために心を砕くようになった。
リカルド ロドリゲス監督は日本人選手をよりおもんぱかるようになり、岩尾も指揮官のチームづくりにコミットしていった。
「リカルドも、僕も勉強しました。僕はあれ以来、チームのことをもっと深く考えるようになり、監督がケアできない部分を補うようになりました」
本を読みあさるようになったのもこの頃から。組織論、コミュニケーション論、コーチング論と幅広く知識を吸収し、チームビルディングの基礎から学んだ。
「勝つ確率の高い組織をつくる上では、必要な知識もあります。知っているのと、知らないのでは雲泥の差ですから」
新天地のレッズでも、自らの役割を認識している。リカルド ロドリゲス監督の要望に応えながら、ピッチでは厳しいレギュラー争いを勝ち抜くつもりだ。
昨季はJ1でもまれ、ボランチとしての動きの質とポジショニングに磨きをかけた。新しい挑戦に胸を弾ませ、目をぎらぎらさせている。
「代表歴もなければ、国際経験もない。たいしたキャリアを持たないこの僕にオファーをくれた人たちの顔に泥を塗るマネはしたくない。いま風に言えば、”じゃない方”の選手が、レッズでどこまで爪痕を残せるのか。僕みたいな選手がトライすることに意味があると思っています。新たな道を切り拓きたいです」
年齢を重ねても、野心を抱き続けているのが過去にリカルドサッカーを経験した男たち。J2の大宮アルディージャから完全移籍で加入した、もうひとりの男も負けず劣らず。左右のサイドバックをこなす30歳の馬渡和彰は、強いハングリー精神を持っている。
「野心という言葉、僕にすごく似合うと思うんですよ。成功をつかみ取ってやろうと気持ちを前面に押し出してずっとプレーしてきましたから。J1のクラブでなかなか出場機会をつかめなかった悔しさを晴らしたい。J1のリーグタイトルがほしいんです」
東洋大学を卒業後、J3のガイナーレ鳥取でプロキャリアをスタートし、J2、J1と這い上がり、またJ2へ逆戻り。一時は「このままキャリアを終えていくのか」と思っていたところで、巡ってきたビッグチャンスである。
リカルド ロドリゲス監督のもとでブレイクした2017年シーズンを思い返し、再び飛躍することを誓う。
「昔はイケイケでしたが、いまは考えて味方を動かしながら守備もできます。サンフレッチェ広島、川崎フロンターレ、湘南ベルマーレ、 大宮でいろいろなサッカーを経験して引き出しは増えました。リカルドに求められていることは、頭の中で整理できているので、あとはピッチで表現するだけですね」
徳島時代はリカルド ロドリゲス監督から「ラインズマンの前に立て」とシンプルな指示を受け、ドリブルで仕掛けてクロスを上げることに注力していたが、年齢を重ねたことで戦術理解度も深まった。
相手と味方のポジショニングに応じて、自らの立ち位置を変え、ビルドアップにも積極的に参加する。
初日のトレーニングから巧みなポジション取りでパスを受け、何度も好機をつくり出していた。岩尾とのコンビネーションも年月を感じさせないほどスムーズだった。
「昔の僕はただひたすら走って、アップダウンを繰り返していました。難しいことはすべてケン(岩尾)くんに任せていましたが、いまとなってはリカルドの戦術もよく理解できます。個人面談でも『相手と味方を見てサッカーをできるようになり、サイドのレーンだけでプレーしていたあの頃とは違います』と伝えました」
レッズでの目下の目標は、2月12日のFUJIFILM SUPER CUP 2022でトロフィーを掲げること。川崎Fでの1年間は血となり肉となっているが、それだけではない。
「悔しい思いをした1年間でしたが、今でも思い入れのある川崎フロンターレというクラブを、タイトルをかけた試合で倒したいし、成長した姿を見せたい」
サイドを熱く、賢く、駆け上がり、2022年のスタートから大暴れするつもりだ。
(取材・文/杉園昌之)