前節のサガン鳥栖戦は相手が1週間の準備期間を得たのに対し、浦和レッズは湘南ベルマーレ戦から中2日の試合間隔で、しかも飛行機移動をともなう厳しい条件のゲームだった。
それでもレッズは2-1と勝利。チーム全体の走行距離こそ鳥栖に上回られたが、マチェイ スコルジャ監督が重要視するスプリント回数はチーム全体で30回近くも上回った。
鳥栖戦を「今シーズンで最も厳しい条件」と言っていたマチェイ監督は、今週のトレーニングが再開した際、鳥栖戦での選手のハードワークを称えつつ、スタッフ陣にも感謝の言葉を伝えた。
「時間がないなかで非常に良い準備をしてくれた。特にメディカルスタッフとフィジカルコーチは素晴らしい仕事をしてくれた」
連戦でもしっかりと戦える環境を作った立役者のひとりは、石栗建フィジカルコーチだった。
顎の辺りまで伸ばした白髪を結うトレーニング中の姿は、孤高な武士を想起させる。
一方、体調管理にも気を付けながらもアイスクリームをこよなく愛す。そんな石栗フィジカルコーチがレッズにやってきたのは2013年だった。
きっかけは、センターバックとしてコンビも組んでいた筑波大学の同級生の誘いだった。レッズのトップチームで監督を務め、現在はザスパクサツ群馬の指揮を執る大槻毅監督はその当時、レッズの育成ダイレクター兼ユース監督に就任することが決まっていた。
「大槻から『一緒に仕事をしてくれないか』と誘われました。当時はフィジカルコーチではなく、普通のコーチ。役割もそうでした。大槻から『フィジカル部門に長けた普通のコーチではいけないの?』と言われ、確かにその通りだと思いました。
育成組織でフィジカルだけではないコーチとして関われたことは僕にとってもプラスでしたし、ライセンスもS級まで取ることができました。本当に大きな価値のある時間でした」
2019年からはトップチームのフィジカルコーチとなり、今季で5年目を迎えた。大槻監督を含め4人目の監督となったマチェイ監督のもとでは、テックことヴォイテク イグナチュクとともにフィジカルコーチを務めている。
「僕はGPSのデータなどを分析、管理することが主な仕事になります。選手自身による疲労度や筋肉痛、練習の負荷などの主観的な感覚と、実際のデータや選手のパフォーマンスを見た僕らコーチ陣の客観的な評価を擦り合わせながら負荷を調整していく。
マチェイ監督はフィジカルに関して詳細に計画を立て、負荷についてかなり気にしながらトレーニングする方ですが、そうしながらトレーニングの負荷を微調整し、選手たちのコンディションを整えています」
今季の前半戦は連戦も多く、AFCチャンピオンズリーグ2022決勝があったためにシーズンが開幕して2カ月程度で一度ピークを迎えなければならなかった。過去に例がない状況だったが、石栗フィジカルコーチの手応えはどうだったのか。
「まず、ケガ人が少なく戦えているのは事実です。その点は特に監督と我々フィジカルコーチ、コーチングスタッフのグループとして事前に計画を立てるなど、マネジメントがすべてだと僕は思っています。後から『こうすればよかった』とならないように、それを想定してどうやって計画を立てていくかが大事。
テックも負荷に関してかなり詳細に計画を立てていますし、僕はGSPを使って実際に出たデータを振り返り、実際の計画とのギャップや負荷の個人差をできるだけ拾うにしています。そうしたマネジメントがうまくいっていると思います」
ただ、石栗フィジカルコーチにとっては、これからが本番だと言っても過言ではない。本格的な夏場は特に、コンディショニングが重要になる。連戦となればなおさらだ。
「試合後の疲労もそうですが、次の試合に向けてどれだけ回復しているかが重要になってきます。次の試合を考えて、試合で調節しようと考えながらプレーする選手はいません。試合で力を出し切ったうえで、どう回復して次に向かうか。試合での負荷が大きければ大きいほど回復とのバランスを取り、次の試合にどう準備していくかを考えていきます」
連戦で大事なのは出場した選手のコンディションだけではない。選手の疲労によってメンバーを代える必要があるなら、代わって試合に出る選手のコンディションも重要になる。
「連戦では、出場時間が短かったり、あまり試合に出ていなかったりする選手と、ゲームに出ている選手との負荷のバランスが取れなくなることがあります。練習機会が減るなかで、試合にあまり出ていない選手に、いつ、どのタイミングで負荷をかけるか、コンディションを維持させるか。それも調整しなければなりません」
フィジカルコーチにとって夏場は非常に重要であり、自分の力が試される時期とも言える。それはチームにとっても同じこと。石栗フィジカルコーチは夏場の戦いの重要性についてこう説いた。
「夏に連勝できるチーム、夏に勝ち点を奪えるチームが最終的に上位に来ると思います。気温が上がるなか、湘南戦、鳥栖戦と連戦でも勝つことができていますし、負けなしで来られています。これをできるだけ長く、勝ち点3をたくさん積み上げられるように頑張っていきたいです」
準備と結果が必ずしも一致するわけではない。ただ、鳥栖戦後にマチェイ監督が感謝したように、夏場に好成績を残せたのならば、その大きな理由のひとつに石栗フィジカルコーチの尽力があるはずだ。
(取材・文/菊地正典)
外部リンク