反撃の狼煙を上げたのは、まさに狼のようにボールに食いつく安居海渡のボール奪取だった。
7月1日にアウェイの駅前不動産スタジアムで行われたJ1リーグ第19節のサガン鳥栖戦。先制を許した4分後の11分、ホセ カンテのゴールで同点に追いつく。一連の流れは相手のスローインを安居がインターセプトしたところから始まった。
一見すると、そこまで目立つプレーではないが、安居にはしっかりとした狙いがあった。
「スローイン投げた選手が流経(流通経済大学)の同期でしたので、多分こう投げるだろうなと考えながら、自分が前にかかったフリをしてボールを出させました。読みでインターセプトできたのでよかったと思います」
スローインをしたのは菊地大智。浦和レッズのファン・サポーターにとってはレッズジュニアユース出身として知られているが、安居にとっては元チームメートとして勝手知ったる相手だった。
DAZNの中継映像では、安居の動きはボールを奪いにいくシーンしか映っていない。ただ、スローインをする際にアップになる菊地の様子を見ると、投げる方向を変えたことが確認できる。それはつまり、安居のフェイントに菊地が引っかかったということだ。
スローインからボールを奪ったため、レッズの選手たちは前を向いた状態でスムーズに攻撃へと移行できた。一方で鳥栖は、後ろ向きに戻らなければならなくなった。コンビネーションからの右サイドの崩しは、各々のプレー精度と判断もさることながら、安居のボール奪取によって攻略しやすい状況が生まれていたのだ。
こうして浦和は同点に追いつき、38分には岩尾憲の自陣からのスーパーフリーキックによって逆転し、2試合連続複数得点で連勝を果たした。その結果に行き着くきっかけは安居が作ったと言っても過言ではなかった。
同点ゴールの場面だけではない。安居は90分を通して安定したプレーを披露し続けた。
攻撃ではボールを失うことなく目立ったミスもなし。ボールをキープすれば、サイドバックだけでなく、特に前半は守備の際に低めのポジションを取っていたサイドハーフが攻め上がる時間も作った。
パスを出せば、味方に正確に届けて攻撃を円滑に回した。そのプレー精度と強度は、後半に運動量がさらに求められるボランチに移っても変わらなかった。
「相当しんどかったです」と言いながらも、走行距離は両チームで3番目、チーム内では大久保智明にわずか10mほど劣る11.623kmでの2番目だった。
忘れてはならないのは、大久保は3日前の湘南ベルマーレ戦で76分に退き、走行距離も10km弱で終えていたのに対し、安居はフル出場してチーム最多の約11.5kmを走っていたこと。さらに対戦相手の鳥栖は週1試合のペースでこの試合を迎えていたことだ。
それでも、安居がまず口にしたのは反省の言葉だった。
「ボールを奪いに行っても奪えないときもありましたし、前線の自分たちがもう少しコースを限定して、ボールを蹴られたとしても、例えば(酒井)宏樹君が競り勝てたり、そういうシーンを増やせれば、後ろの選手がもっと楽に守れたと思います。それだけではなく、全部が全部前から奪いに行くのではなく、たまには自分たちも下がってミドルゾーンで守備をするという判断をもう少し早くできればよかったと思います」
勝利した試合、特に活躍した選手からは景気のいい言葉を聞きたい、伝えたいと思うものだ。しかし、安居はいつも反省の言葉を真っ先に口にする。そう指摘されると、安居は「まあまあまあ」と表情を緩めながら続けた。
「今日も悪かったと思っているわけではありません。ボールフィーリングも良かったです。でも、自分はまずマイナスのことを強く感じてしまうんです」
ネガティブなタイプなのかと思うかもしれないが、それも少し違う。
「マイナスのことが強く出るのは悪いことだと思っていません。どうやって改善すれば自分にとってプラスになるかと考える材料だからです。悪かったときは『今日は全然良くありませんでした』と言いますが、今日は悪くはなかったうえで反省点はそこ、という感覚です」
事実、そう話す安居の表情と声色は明るかった。改善点はあるが、それを次戦に生かすことができそうだ。
次戦は、7月8日のFC東京戦。コロナ禍による制限も解け、4年ぶりに実施される『GoGoRedsデー』は小中高生のチケット料金が『550円 Go(ゴー) Go(ゴー) Reds(レッズ)!』となり、たくさんの来場者が見込まれる。
どちらかと言えば玄人好みのプレースタイルの安居だが、多くの子どもたちが観戦するなか、ファン・サポーターがうなるようなプレーを随所に見せてくれるはずだ。
(取材・文/菊地正典)
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