夏の新加入選手のひとり、「ブック」ことエカニット パンヤが浦和レッズに合流して1カ月が経とうとしている。
初めてとなるタイ国外でのプレー。タイ国外での初の長期生活。現在はどんな感覚で日本での生活を送っているのだろうか。
「まだまだ慣れようとしている段階ですが、以前よりは慣れてきていると感じます。日本の環境や食べ物にも少しずつ慣れてきています」
クラブハウスや寮で食事をすることが多いため、まだ日本食はそれほど口にしていないが、今のところは焼肉がお好み。一方でタイ料理のおすすめは、「一般的でなおかつおいしい」ガパオライスだという。日本人とも食の好みは合うかもしれない。
新加入会見では「こんにちは。初めまして。エカニット パンヤです。ニックネームはブックです。よろしくお願いします」と冒頭のあいさつをすべて日本語で話したが、単語から少しずつ覚えようと努力している。
「まだ『おはようございます』、『こんにちは』、『おやすみなさい』といったあいさつくらいですが、日本に来るにあたって日本語会話の本を買いましたし、動画サイトで勉強しています」
新加入会見では「一番仲が良い選手」として堀内陽太の名前を挙げていたが、日本語会話の勉強の成果か、仲が良い選手は増えたようだ。
「(堀内)陽太や(早川)隼平とはよく話していますが、(髙橋)利樹や同い年の(安部)裕葵、荻原(拓也)ともよく話します」
その言葉通り、トレーニングの前後や合間でチームメートと話す姿を見る機会は増えている。トレーニング中も、チームメートと確認作業をしたり、説明を受けたりする姿が見られる。
こうして会話をしていてもそうだが、普段は穏やかで真面目な印象を受ける。自分をどんな性格だと思っているのか。
「難しい質問ですね」と笑いながら、ブックは次のように説明した。
「強いて言うなら、『何でも大丈夫』という人だと思っています。物静かだとは思いますが、まったく話さないわけではありませんし、友人との会話を楽しむこともできます。クールに見えますが、ちゃんとした青年ですよ(笑)。それに、日本に来たからには自分なりにチームメートと話すようにしています」
日本に来たからには、と言うところにも感じる真面目な印象は、プレーに話が及んでも変わらない。
「自分に与えられる役割があると思いますし、もしチャンスを与えてもらえたら、その役割一点に集中することを念頭に置きながら、自分のいいパフォーマンスを引き出さなければいけないと思っています」
新加入会見でも「トップ下で自分の色を出していきたい」と話していたが、自分のいいパフォーマンス、自分の色とはどんなものなのか。
「前線の選手ですし、ゴールすることが好きです。ただ、パスは武器のひとつだと思っていますし、ゴールにつながるラストパスを出すことを意識しています」
土田尚史スポーツダイレクターもブックの魅力として「技術」を挙げたが、周囲とのコミュニケーションと同様、トレーニングでも少しずつだが、技術の高さを披露する機会が増えている。
ある日のトレーニング。右サイドを抜け出しながらスルーパスを受けると、右足を大きく後ろに振り、クロスを上げると思いきや内側でフリーになる選手に優しいショートパスを送った。その一連の流れは、クロスを止めようとスライディングした選手を責められないほどスムーズだった。
「パスが来ることは予想できていました。だから(抜け出しながら)ボールを受ける直前に周囲を確認しながらどういうプレーをするか考えていました。クロスを上げることもできましたが、ゴール前の状況から可能性は低いと思いました。ちょうど中央にフリーになっている選手がいたので、瞬時に判断を変えてショートパスを出しました」
フェイントではなく、瞬時の判断。それは周囲の状況を確認し、把握していたからこそできたこと。それらもまた、ブックの武器と言えそうだ。
「チームの環境、日本の環境に慣れようと日々ハードワークしています。レッズに来たからにはチームの力になりたいと思っていますし、自分の力を引き出せるように頑張っていきたいと思っています」
クールで穏やかな心中に闘志を燃やす。これから大原サッカー場で「自分の色」を出す機会は増えていくことだろう。そして埼玉スタジアムのピッチへ。Jリーグでプレーすることは夢だったが、ただの夢で終わらせるつもりはない。
(取材・文/菊地正典)
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