フットボールを生業とする者として、FIFAワールドカップ カタール2022からは大きな刺激を受けている。三菱重工浦和レッズレディースで4年目を迎える植村祥子は、しみじみと話す。
「世界の大舞台でも自信を持って、自分らしさを出すメンタルの強さは、凄いと思いました」
特に感銘を受けたのは、途中出場でゴールに絡んだ日本代表の堂安律、三笘薫らのプレーだった。
現在、植村もレッズレディースでは同じようにベンチからスタートし、限られた時間内で結果を残さないといけない立場。巡ってきたチャンスを物にするために、あらためて自らに言い聞かせた。
「練習がすべて。毎日の積み重ねが大事になってきます。うまくなって、強くなるためには、他の選手よりもプラスアルファでボールを蹴るしかないと思っています。ゲーム形式の練習では、必ず1点以上取ることを意識しています。練習でできないことは、試合でもできませんから」
全体練習が終わると、ひたすらゴールに向かっている。
目の前の相手を抜き切らず、自分のタイミングでシュートを打つ形は十八番。パスを受ける前に状況を把握し、トラップして素早く足を振る。得意とする得点パターンを磨くことには余念がない。
ゴールには、強いこだわりを持っている。埼玉県草加市の小学校で本格的にサッカーを始めてからFW一筋。小学校2年生から男子に混ざってプレーし、ゴールを決め続けた。
幼少期から点を取ることに喜びを見出し、なでしこジャパンのストライカーとして活躍した大野忍さんにも憧れた。
小学校を卒業するまでに女子の仲間は途中でみんな辞めてしまったが、植村の情熱だけは変わらなかった。
「私にとって、女子ひとりだけというのは関係なかった。少し気になりましたけど、それよりもボールを蹴ることが好きだったので」
中学校からは女子チームでプレーし、名門の藤枝順心高校、日本体育大学を経て、2019年に浦和レッズレディース(現三菱重工浦和レッズレディース)に加入。ただ、分厚い選手層に阻まれ、なかなか定位置は確保できていない。
昨季、WEリーグがスタートしたものの、スポットライトを浴びる機会はほとんどない。
リーグ戦3試合に出場し、プレー時間8分のみ。危機感を覚えないわけがない。今季はチームメイトと積極的にコミュニケーションを図っていくという誓いを立てた。
「周囲に自分の意思を伝えて、味方からはどういうプレーをしたいのかを聞き、自らの動きに取り入れています。仲間のプレーをより理解することで、新たに見えることもありました。試合に出場できない現状があったので、何かを変えないといけないと思ったんです」
意識改革はさっそく奏功している。
今年8月、WEリーグカップ開幕の大宮アルディージャVENTUS戦ではレッズレディースで初めて先発出場を果たし、一定の手応えは得た。
ゴールこそ奪えなかったが、自ら仕掛ける場面もあれば、果敢にシュートも放った。いま思い返しても、満面の笑みが漏れる。入場から胸が高鳴ったという。
「久しぶりすぎて、ワクワクしたんです。自分がどれくらいできるのか、少し不安にもなりましたが、『やってやろう』という意欲のほうが強かったです」
WEリーグカップでは、スターティングメンバーに名を連ねたグループステージ初戦を含め4試合に出場。昨季に比べると、スルーパスを呼び込めるようになり、持ち味の裏への飛び出しも増えてきた。
チームメイトで同学年の猶本光(94年3月生まれ)から「動き出す前に駆け引きをしたほうがいい」と助言を受けたことも大きかった。
2022-23シーズンのWEリーグでも開幕から2試合続けて途中出場。その後は出番がないものの、ベンチ入りは続いている。ピッチに立てない試合後は悔しさを感じるが、前向きにとらえている。
「駒のひとつとしては、考えてもらっているはずです。たとえ、最後の最後の時間帯であったとしても、ひとつでも、ふたつでも、相手が嫌がる動き、自分の持っている力を出すことを意識しています。得意なプレーを見せて、チームの勝利に貢献したいです」
勝負の29歳。今季の個人目標はレッズレディースでの初得点、WEリーグでの初ゴール。まずは1試合でも多く公式戦のピッチに立ち、存在価値を示すことだ。
ひとつのシュートミスを引きずる悪癖の改善にも取り組み、殻を破るために自らと戦っているところ。
「初ゴールに期待してもらいたい。決めたいですね」
1ゴールをきっかけに飛躍し、理想のフットボーラーになることを頭に描いている。
「女子サッカーが徐々に普及し、競技人口も増えてきました。見ている人たちに感動してもらえるようなプレーを見せ、夢を与えられる選手になりたい。
私がゴールを決めて、何百人、何千人が笑顔になるところを見たいですね。子どもたちから憧れられる存在になれれば、サッカー選手として幸せを感じることができると思います」
背番号14のたゆまぬ努力が報われたとき、ファン・サポーターの間にきっと最高の笑顔が広がっているはずだ。
(取材・文/杉園昌之)