2つのカップウィナーズとして、2シーズン目のリーグチャンピオンを目指す。
Jリーグがシーズンを終えようとしている中、2022-23 Yogibo WEリーグが10月22日に開幕する。
三菱重工浦和レッズレディースは翌23日、14時から埼玉スタジアムでAC長野パルセイロ・レディースとの開幕戦に臨む。
その3週間前、レッズレディースは2022-23 WEリーグカップで頂点に立った。
日テレ・東京ヴェルディベレーザを相手に3点のリードを許しながら、75分に清家貴子が圧巻のドリブル突破から1点を返すと、76分に安藤梢がコーナーキックのこぼれ球からゴールを決める。
さらに84分、菅澤優衣香がPKを決めて同点に追いつき、90分で決着がつかず迎えたPK戦では相手が3本目をポストに当てたあと、福田史織が相手の4本目を見事にセーブ。レッズレディースはキッカー全員が成功して初代女王に輝いた。
「すごくうれしいとは思うのですが、あまり実感はありません」
脳内を整理するように、上を見ながらそう答えたのは、WEリーグカップ全6試合にフル出場した佐々木繭だった。
「引き分けが多かったですし、決勝戦も90分で引き分けたうえでのPK戦でした。よくゴールを取ってくれたとチームメートに感謝しています」
DFとしてプレーした立場として口をついたのは、喜びよりも反省の言葉だった。
プレー可能なポジションはサイドバック、ボランチ、サイドハーフと多岐に渡り、1試合の中でも複数どころか3つのポジションをこなすなどのユーティリティ性を持つ。
「スピードが課題ですし、背が高いわけでもないので、派手さはありません」
佐々木は謙虚にそう話すが、豊富な運動量と確かな技術を持ち、安定性をもたらす選手としてレッズレディースに欠かせない選手だ。楠瀬直木監督が若手を積極的に起用したWEリーグカップでポジションを変えながら全試合にフル出場したことが、佐々木の重要性を物語っている。
ピッチを離れれば物腰は柔らかく、穏やか。ポジションが近い選手とコミュニケーションを図り、前後や隣でプレーする選手が若手であろうが、細かく指示をし過ぎないように心掛け、その選手らしさを出させることを優先する。その柔軟性も佐々木の武器の一つだ。
そんな佐々木が隣や前後で共にプレーし、信頼していた選手が昨シーズン限りでチームを去った。ジュニアユースからレッズレディースでプレーし、日本を代表するセンターバックとなった南萌華が海を渡り、イタリアはセリエAのASローマへ移籍した。
「萌華は私が『こうしてほしい』と言わなくても、やってほしいことをやってくれる選手でした。萌華が移籍して、本当に心細かったです」
しかし、試合を重ねるごとに不安を解消していった。
佐々木が左サイドバックに入る際には「信頼している」高橋はながひとつずれて佐々木の隣でプレーすることも増えた。髙橋美紀や石川璃音といったセンターバックでプレーする若手とも積極的にコミュニケーションを取った。
「若い選手が入ってきた最初の頃は、『そんな原理・原則も分からないのか』と思うこともありました(笑)。でも、すごく一生懸命取り組んでくれていますし、『さっきのプレーはどうでしたか?』など、たくさん聞いてきてくれます。今はもうそんなに言う必要はなくなりました」
その結果として、WEリーグカップを手にした。
「一人ひとりがやらなければいけないプレーをしっかりと理解してピッチに立てていることは大きいと思います。WEリーグカップが始まってすぐは『大丈夫かな?』と不安でしたが、模索しながらも自信がついたと思います。苦労を経験しながら優勝できたことは、これからに必ずつながると思います」
そしてWEリーグ2シーズン目を迎える。
1シーズン目を戦い終えて感じたことは、シーズンの期間が変わったことの難しさ、優勝できなかった悔しさ、そして集客の難しさだった。
リーグが掲げた集客目標は1試合平均5,000人だったが、レッズレディースを含めて目標を超えたチームはなかった。
どうにかたくさんのお客さんにレッズレディースを見てほしい。選手1人でできることは限られているが、佐々木は「どうにかしたい」と行動に移した。
「(レディース選手の練習拠点である)レッズランドで行われているフットサルスクールやランニングスクール、イベントにもなるべく参加して、直接交流して応援してもらえるように活動していました」
自分自身で作成している名刺を配るなど、佐々木個人やレッズレディースを知ってもらおうと奔走した。
「名刺を配ったことで、実際にユニフォームを買ってくれたり、SNSをフォローしてくれたりして、試合にも来てくれるようになりました。名刺を渡した方で、ご夫婦で試合を見に来てくれる方もいます。
3試合も観戦に来てくれましたが、最近では6〜7人の友達を連れてきてくれたんです。数える程度ですが、私個人でできることはそういうことなので、コツコツ頑張っています」
なぜ、多くのお客さんに来てほしいのか。
当然ながらリーグとしての目標だけが理由ではない。WEリーグカップ決勝であらためて感じたことがあった。
「WEリーグカップ決勝も会場はベレーザのホームスタジアムである(味の素フィールド)西が丘でしたが、レッズのファン・サポーターのほうが多かったと思います。すごくいい雰囲気を作ってくれました。最後まで諦めない雰囲気を作ってくれたのは、ファン・サポーターの方々です」
そしてWEリーグ開幕戦。会場は慣れ親しんだ浦和駒場スタジアムではなく、埼玉スタジアム。
「大きいスタジアムですし、たくさんの方に来てほしいです。たくさんの方の前でいいプレーをして、いいスタートを切れるように頑張ります」
目標は皇后杯、WEリーグカップに続くリーグ優勝。なでしこリーグを制した2年前と同じように、1試合1試合を大事に戦う。その最初の1試合。「個性が強いけど、試合になるとうまく調和する」レッズレディースが、埼スタで目標へ走り出す。
「レッズレディースは可愛い選手もカッコいい選手もたくさんいるので、推しを見つけていただいて、そこからチームを好きになっていただいて、1人でも多くの方に試合に来てほしいと思います」
派手さはないかもしれないが、チームに欠かせぬ玄人筋。佐々木繭のプレーにもぜひ注目してほしい。
(取材・文/菊地正典)
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