まさにナンバー10が攻撃を彩った。
8月22日に行われたAFCチャンピオンズリーグ(ACL)2023/24プレーオフで、浦和レッズは新たな攻撃の可能性を示したと言えるだろう。
ホームに香港の理文を迎えた浦和は、リーグ戦ではすでに途中出場からピッチに立っていた中島翔哉が加入後、初めてスタメンに名を連ねた。中島はトップ下で出場すると、ともに2列目を担う右の大久保智明、左の小泉佳穂と、絶妙なコンビネーションを見せた。
開始3分だった。相手のパスをカットした大久保が右サイドでドリブルを仕掛けると、開いた中島がパスをもらい、タメを作る。大久保はその間に、DFの裏へと走り込み、中島からのリータンを受けると、ゴール前へと折り返した。そのラストパスに左サイドの小泉が呼応する。右足で流し込むと、幸先よく先制点を奪った。
次は先制からわずか3分後の6分だった。大久保が右サイドから中に切り込み、中島にボールを預ける。中島はペナルティエリア手前で再びタメを作り、マークを引きつけると、右サイドバックである酒井宏樹のオーバーラップをいざなった。フリーでパスを受けた酒井がクロスを上げると、興梠慎三が頭で合わせて追加点を奪った。
中島が作ったタメこそが、新たな攻撃の一手であり、繊細なスルーパスこそが新たな攻撃の可能性でもある。
アシストを記録した大久保が、先制点を振り返る。
「自分がボールをカットしてから、翔哉くんが自分の走力を活かしていいボールを出してくれましたし、慎三さんもニアで潰れてくれた。本当にいろいろな選手が関わることで生まれたゴールだったと思います」
ともに東京ヴェルディの育成組織出身とあって、背番号10がピッチにいることの効果については、ノスタルジーを感じさせる表現で言い表してくれた。
「ヴェルディっぽいな、と思いました。ギリギリで判断を変えられる余裕があるというか、(パスを)さし込んできそうだなって思うと、ループでちょんとか。(東京Vユースで同期だった)渡辺皓太(横浜F・マリノス)とプレーしているような感覚でした。自分もそういうプレーを忘れていたなということを、日々の練習からも思い出させてもらっています」
今度は先制点を決めた小泉が振り返る。
「自分のプレーについては及第点ですけど、ポジティブなところを上げるとすれば、チームとして先制点が早い時間帯に取れたところでした。相手に希望を持たせると、難しい展開になっていたかもしれないなかで、相手の出鼻を挫けたという意味で大きかった」
あくまで自分のゴールは「おまけ」であり、「ご褒美」としつつ、背番号10の存在について語った。
「翔哉くんは高い位置でプレーして活きる選手だと思いますし、彼自身もそこで勝負したいと言っていたので、チームとしていかに高い位置でボールを持たせることができるか。また彼にボールが入ったときにどれだけ近い距離感で絡めるか。いいタイミングでボールが出てくるので、走りやすかったところはありました。
トモ(大久保)も本来は同様のタイプですが、ひとりで頑張れてしまうところがあった。共鳴できるふたりがいい距離感で小さいアドバンテージを作りながら、相手をずらしていくシチュエーションを生み出すように自分も意識しました」
攻撃の起点となり、2得点を演出した中島は、チームメートを称賛する。
「うまい選手がたくさんいるのでやりやすいですし、どの選手もテクニックがあって、パスも出せるので、楽しいですし、やりやすい」
自分自身については、「なるべく動いて試合でのコンディションを上げられるようにしようと思っていました」。
もしくは「比較的、長い時間、試合に出られたので、そこは良かった。試合でなければ感じられないところもたくさんあると思うので」と語っていたように、まだまだこれからというところがあるのだろう。
それは早くも息の合ったコンビネーションを見せた小泉や大久保も同様だった。
「やりやすさは感じましたけど、相手が変わればまた違ってくるので、リーグ戦やACLといった強度の高い試合を重ねていくなかできるようになってくればと思います。これがチームのオプションであり、武器のひとつになっていけばいい」(小泉)
「(これからも翔哉くんから)スルーパスは出てくると思います。でも、今日の試合ですべてが分かったわけではないですし、Jリーグのほうが強度も高いので、試合を重ねていくことでもっといいところが出てくると思っています」(大久保)
課題は、このコンビネーションをいつ、どこで見せるか。また、いかなる相手でも発揮できるかにある。
大久保が「勝つことが最優先」と、3-0で勝利した理文戦を定義したが、これによりACL2023/24のグループステージ進出が決まった。そして、先ほど行われた組み合わせ抽選の結果、浦和レッズは武漢三鎮(中国)、浦項スティーラーズ(韓国)、ハノイFC(ベトナム)とグループステージを戦うことになった。
ACLプレーオフで示した新たな攻撃の形が研ぎ澄まされていくのもこれからのように、4度目のアジア制覇を目指す浦和レッズの戦いもまた、スタートしたばかりだ。
(取材・文/原田大輔)
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