「自信はあったのに、それをプレーで体現できるだけの状態を自分自身で作り出すことができていなかった。それに対して、不甲斐なさを感じたというか……明確にこれが足りない、あれが足りないという具体的なものではなく、ただ、ただ、強烈に悔しくて……」
「ここまでのキャリアを振り返ると、基本的にあまりケガをすることなく、シーズンを送ってきました。それが昨季はケガをして、スタートラインにすら立つことができない感覚を初めて感じました」
「プロのキャリアが始まった水戸の1年目はプロの洗礼というか、明確に本来、自分が持っているパフォーマンスを試合レベルで出せないという経験値の少なさが招いた結果でした」
「2年目は試合に出場するチャンスをもらいながらも、当時は交代枠が3人だったこともあり、90分間、体力がもたないボランチということで徐々に出場機会が減っていきました。3年目はそれを克服し、前年とは監督が代わったこともあって試合に出られるようになった。それが昨季はプロ5年目でしたけど、1年目と同じくらい試合に出場する機会を得られなかった」
「ケガをすること自体は仕方がないところもありますけど、誰かと接触して負ったケガではなかったところが、めちゃめちゃ悔しくて。そこは日ごろの行いというか、なるべくしてなったと思っています。
「昨季も正直、チャンスはあったと思うんです。ボランチの選手が固定されていたなかで、ケガが治ってから行われたACL(AFCチャンピオンズリーグ2022)のグループステージでチャンスが回ってきた。
「だから、今季がたとえ昨季と同じ成績だったとしてもいいんです。そこに後悔がなければ。それくらい後悔しない1年にしたいなと、今季が始まるときに、そう思いました」
「今思うと、プロ1年目のときは必死だったなって。私生活の話をすることになってしまいますけど、結果がすべての世界に足を踏み入れて、試合に出なければまるで自分が死んでしまうような感覚で、あのときはピッチ外でもサッカーのことを考えている時間が、とにかく多かった。
「僕は生まれも育ちも東京で、これまで多くの人と触れ合う環境で育ってきました。ときにはサッカー以外にも面白そうなことはあるのではないかと、ふと思ったこともあります。そういう意味ではサッカーのことを考えないほうが幸せなときもある。だから、自分がサッカーをすごく好きなのかどうかも分かっていなかったんですよね」
「そうなんです。気づいてしまったんですよね。サッカーが好きなことに。今までは思っていることを言葉にするのはダサいと思っている自分もいました。でも、今は、変なプライドもすべて消えて、プライベートにもサッカーを持ち込み、また自分がサッカー選手だということを周りに伝えることで、応援してもらえる、それが自分の励みになることも知りました」
「そういう意味で今季はプロ1年目と似たようなメンタリティで臨んでいます。違うのは5年間の貯蓄があること。この経験は1年目とは違うし、大きいと思っています」
「自分が試合に出場するかしないかを決めるのは第三者なので、そこに対してあれこれ考えていても解決策はないと思っています。だから、全力で取り組んだ結果、昨季と同じ成績でもいいんです。でも、ゴーサインが出たときに、自分が最高のパフォーマンスを出せる準備を常にしておきたいと思っています。それがたとえ自己満だったとしても。
「バルサの試合をいつも見ているのが大きいかなと思っています。DAZNで試合を見ているとき、『ここに入ってきてほしい』とか『ここにいてほしい』と思っている動きをバルサの(セルヒオ)ブスケツも、(フレンキー)デ ヨングもするんですよね。
「(リーグ戦で3連勝しているように)チームが勝ち続けるのはいいことですが、自分が起用されるのは、きっとチームがうまくいかなくなったり、流れを変えたくなったときだと思っています。そのときの選択肢になれるように、存在感を示しつつ、パッと変わったときに、いいパフォーマンスができる準備をしておきたい。
「もちろん今年、結果は出したいと思っています。それに思い出したこともあるんですよね。子どものとき、恵まれていたことに海外旅行に連れて行ってもらえる機会が多く、現地でプレミアリーグのチェルシー対マンチェスター・ユナイテッドの試合を見たことがあったんです。
「このファン・サポーターのためにがんばろうって、みんなが口をそろえて言う理由が分かりました。自分も心からそう思いましたし、それくらいあのビジュアルサポートも、声援もすごかった」
「僕は(リオネル)メッシのようなプレーができるわけじゃないし、年間で何十ゴールも決められるボランチでもないし、身体能力に秀でたボランチでもない。でも、ひとり代わっただけでもチームの雰囲気をガラッと変えることができるような存在感や、イデオロギーをチーム全体に伝播させる細かい気配りや雰囲気を醸すことはできると思っています」
(取材・文/原田大輔)