3月8日に行われたYBCルヴァンカップの湘南ベルマーレ戦を記者席から見ていて、「これこれ!」と思わずにはいられなかった。
1年半前に感嘆し、残念なことに昨季はほとんど堪能できなかったもの――。
平野佑一の縦パスである。
最終ラインからボールをピックアップし、相手のプレッシングの第一波が迫るぎりぎりまでボールを保持しつつ、空いているスペースやフリーの味方を見つけて、ポーンとボールを届ける。
後方から来たボールをダイレクトで前方に送ったり、短い距離でパス交換をしながら相手が動いた瞬間にスパンと縦パスを入れたりする。
まさにマエストロやコンダクターといった振る舞いで、個人的にこのリズム、このテンポが大好きだ。
平野のプレーで忘れられないのが、加入直後の21年9月に行われたルヴァンカップ プライムステージ準々決勝の川崎フロンターレとの第1戦だ。
当時の絶対王者が繰り出す迫力のあるプレッシングを平野はワンタッチパスを駆使して、掻い潜りまくった。その縦パスで川崎の“プレス隊”を何度も置き去りにし、戦況をひっくり返す様は、衝撃的ですらあった。
もっとも、昨季はシーズン序盤に負傷し、復帰したあともケガに泣くなど、プレー時間は少なく、不完全燃焼に終わった。それだけに、沖縄でのトレーニングキャンプでは今季に懸ける思いを伝えてくれた。平野なりのスタイルで。
「今年は後悔のないようなコンディション作りをして、自分の力はすべて出せたというシーズンにしたいですね。やってやるとか、見せつけてやる、と思うと空回りするタイプなので、そういうのが前面に出ないように意識していますが、すっごい熱いものは内に秘めています」
こうして迎えた今季、3月4日のJ1・3節のセレッソ大阪戦でベンチ入りすると、湘南戦で公式戦初出場を果たすのだ。
アンカーとして90分、フル出場した平野は「最低限、やれることはやれたかな」と振り返ったものの、厳しい表情を見せた。
「僕はチームを勝たせるボランチになりたいので、納得いっていないです。相手のプレスの波を剥がしたあとは、リスク管理に集中したところがありますが、あそこでもう一回ボランチが相手コートに入って、横に揺さぶってもよかった。そこは課題です」
とはいえ、「佑一くんとはやりやすかった」と小泉佳穂が語ったように、存在感を示したのは確か。岩尾憲と伊藤敦樹のふたりで固まりつつあった2ボランチに割って入るだけのパフォーマンスを披露したのは間違いない。熾烈なボランチ争いが面白くなってきた。
(取材・文/飯尾篤史)
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