7月10日のFC東京戦で浦和レッズの2点目が入った瞬間、3年前に長山郁夫スカウトから聞いた言葉がふとよみがえった。
「俺の中で、アツキ(伊藤敦樹)は若い頃の稲本(潤一)みたいなんだよ。スケールが大きくて、ダイナミックで。走り方も雰囲気もどことなく似ている気がして」
1点リードで迎えた50分、ピッチ中央で横パスを受けた伊藤敦樹に迷いは一切なかった。ゴールまでの距離は約20m。利き足ではない左足でぎりぎりのコースを突く、技ありのミドルシュートを叩き込んだ。
大胆な判断、そして満面の笑みを浮かべてリカルド ロドリゲス監督のもとに駆け寄る姿は、まるで20年前の日韓ワールドカップで活躍した元日本代表のボランチのようだった。
流通経済大学時代はサイドバック、センターバックでも活躍していたものの、スカウトが最も評価したのはボランチでのプレー。たくましく成長した大卒2年目の姿に目を細めながらも、大きな驚きはないようだ。
「もともとのポテンシャルは高いので。日本代表だって狙えると思います」
本人の意識も高い。プロ1年目の課題を見つめ直し、地道な筋力トレーニング、体幹トレーニングを重ねている。今季はフィジカルコンタクトで負けることはほとんどない。
ボール奪取、インターセプトから一気に攻め上がる回数が増えており、理想とする『ボックス・トゥ・ボックス』を体現できるようになってきた。
FC東京戦のゴールも取り組んできたひとつの形だ。長山スカウトもクラブハウスなどで伊藤と顔を合わすたびに、「ミドルシュートも練習しておけよ」と伝えていたという。
「ミドルシュートはそろそろ決めたいと思っていました。左足は得意ではないのですが、思い切り打ったら入りました。気持ちよかったです」
スタミナの消耗が激しい季節を迎えているが、伊藤の表情は充実感に満ちている。中3日の2連戦とも先発フル出場。終了の笛が鳴るまで、全力で走り続けた。
7月6日の京都サンガF.C.戦後、大学時代に1年間だけ指導を受けた曺貴裁監督のもとに挨拶に行くと、感心されたという。
「だいぶ、走れるようになったな」
恩師の言葉に照れ笑いを浮かべながらも、すぐに気持ちを引き締めていた。
「僕はまだまだです。もっともっと走らないといけない。夏の暑さには強いので、ここからさらに突き詰めていきます」
16日の清水エスパルス戦でも、“夏男”の奮起に大いに期待したい。
(取材・文/杉園昌之)
外部リンク