待望の歓喜であり、歴史を刻む1勝だった。
浦和レッズは6月18日に行われたJ1リーグ第17節の名古屋グランパス戦に3-0で勝利した。実に3月10日のジュビロ磐田戦以来となる10試合ぶりのリーグ戦での勝ちどきだった。
まずは“待望の歓喜”と表現したその試合を振り返ろう。
「完全な試合ができたと思っています」
試合後、リカルド ロドリゲス監督が雄弁に語ったように、浦和レッズは前半から相手を圧倒した。
ただ圧倒しただけならば、勝利が遠かった過去9試合もさほど変わらないだろう。だが、この日の彼らは目に見える結果を示した。
セットプレーだった。21分に左コーナーキックを得ると、岩尾憲が巻いたクロスに、アレクサンダー ショルツがゴール中央からヘディングで先制点を奪う。
続く2分後にも同じく左コーナーキックを獲得する。キッカーの岩尾は今度はニアを選択。反応した明本考浩が頭で逸らすと、ファーサイドに飛び込んだ伊藤敦樹が右足で押し込んだ。
貴重な先制弾を決めたショルツは言う。
「このチームに足りないのはゴールだと思っていました。セットプレーが最もシンプルな形で得点が取れるもの。重要なのはそのチャンスをものにすることだと思います」
続けざまの2点目を奪った伊藤も喜びの声をあげた。
「押し込むだけでしたけど、やっと今季初ゴールを決めることができたので、素直にうれしかったです」
セットプレーでの2得点もさることながら、圧巻だったのは36分に関根貴大が決めた3点目だった。このゴールには、チームが上昇するためにリーグ中断期間中に取り組んできた“粋(すい)”が詰まっていた。
右ウイングで出場した大久保智明がドリブルで相手を翻弄し、中央までボールを持ち運ぶと、左サイドに開いた江坂任へと展開する。江坂は中を見ると、ペナルティーエリアの角を取った関根に向けて、DFの間を通すスルーパスを出した。
ここからがさらに圧巻だった。ボールを受けた関根は一気にスピードアップ。伊藤とのワンツーで相手の裏を突くと、GKを交わすようにゴール右スミにシュートを流し込んだ。
「中断期間にやってきたことがピッチの中でいくつか表現されていたと思います。3点目に関しても我々が狙っていた形の一つでもありました」
指揮官がそう語ったように縦への意識、相手の裏を狙う動き、そして最大の課題でもあったゴールへの迫力が生んだゴールだった。
3点目のシーンだけではない。大久保はチャンスと見れば再三ドリブルを仕掛けて数的優位を作り出した。大畑歩夢と宮本優太の両SBも高い位置を取り続け、クロスを供給した。
前半飛ばしすぎた影響で、後半に入りややトーンダウンしたのは今後への宿題である。それでも試合終了間際には、明本のヘディングシュートがクロスバーに直撃、途中出場した松崎快がカウンターからポストに当たる惜しいシュートを放つなど、最後まで4点目を奪いにいく姿勢を見せた。
内容では相手を上回っていても肝心の結果が伴わない。ゴール前まで押し込むものの肝心のゴールが奪えない。そうした明白な課題に中断期間中に取り組んできたチームは、シーズン後半戦に向けて回答を示した勝利だった。
そして、10試合ぶりとなる“待望の歓喜”は、同時に“歴史を刻む1勝”だった。
この勝利により、浦和レッズはJ1通算450勝を達成。加えてホーム250勝だった。これは29年目を迎えたJリーグで3チーム目の快挙となる。
先に達成しているのはJ2降格経験のない鹿島アントラーズと横浜F・マリノスのみ。Jリーグ創設時から名を連ねてきたいわゆるオリジナル10でも3チーム目だけに、十分に誇っていい記録と言えるだろう。
伊藤が歴史を噛みしめるかのように言った。
「今日が節目の勝利ということは試合が終わってから聞きました。J1リーグで3チーム目だと聞きましたが、その記録というのは浦和レッズの素晴らしさを表していると思いますし、そういう節目の試合で自分がゴールできたことは本当にうれしいです」
サポーターの一員として歴史を見届けてきた伊藤が、選手としてピッチに立ちゴールを決めて歴史に名を刻む。それこそがまさに積み上げてきたレッズの歴史と言えるだろう。
そして歴史は紡がれ、また新たな歴史が築かれていく。
J1通算450勝は誇るべき記録だが、浦和レッズにとっては通過点に過ぎない。節目となる試合で勝利への回答を示したように、シーズン後半戦は451、452、453……と、再び勝利を積み重ねていくための礎となるような“歴史を刻む1勝”だった。
(取材・文/原田大輔)