プロ2年目で初めての退場処分。浦和レッズの伊藤敦樹は、4月6日の清水エスパルス戦で受けたレッドカード(2度目の警告)を重く捉えている。
「僕のせいで試合を壊してしまいました。責任を感じています。しっかり反省しないといけない。経験不足の一言では片付けられません。自分の甘さが出てしまった」
日本を発つ前に自らを見つめ直していた。
今季、背番号3を託された宇賀神友弥(現FC岐阜)からのエールも胸に留めている。
《同じこと繰り返さなければ、今日の退場がお前の財産》
SNSを通じて、チェックした先輩の金言をしみじみと噛み締める。
「財産と言えるようにしたいです」
汚名返上に燃える23歳は、15日からタイで始まるAFCチャンピオンリーグのグループステージに向けて、気持ちを高ぶらせる。
自身初めての国際大会。酷暑が予想される中での中2日の6連戦になるが、むしろ望むところだという。体力的に厳しい戦いになることを想定した上で、自信をのぞかせる。
「僕の良さが出せるはずです。連戦を戦い抜くタフさはあると思っています」
流通経済大学の4年時には、キャプテンとして中1日、中2日で4連戦を強いられる夏の大会を勝ち抜いた経験がある。
レベルやプレー強度こそ違えど、コンディション調整は同じ。異国の地でも77kgのベスト体重を維持するための水分補給、栄養補充は怠らない。
激しい球際の争いでも負けるつもりはない。プロ入りしてから1年。筋力トレーニングに精を出した成果を実感している。
今季はJ1リーグでもフィジカルコンタクトで負けなくなってきた。グループステージで同組に入る韓国の大邱FC(21日、24日)は、腕試しのいい機会だという。
「自分がどこまでできるのか本当に楽しみ。体の当て方、入れ方は日頃の練習からずっと意識しているところです」
チームメイトの柴戸海からは学ぶことが多い。ボールを奪い切る守備の技術をはじめ、相手に体を寄せる速さ、ルーズボールにいち早く反応するスピードなど、同じボランチとして参考になることばかりである。
「ACLでもボールを取って、そのまま前に出ていく僕の持ち味を出していくつもりです。Jリーグでは勝ち切れない試合が続いていますが、ボランチとして、守備では無失点を抑え、攻撃ではゴールに絡んでいきたい」
アジアの戦いには、特別な思い入れがある。
伊藤が初めて見たACLは2007年大会。まだランドセルを背負っていた9歳の頃だ。
物心ついた時からレッズを熱心に応援していた少年は準決勝の城南一和(韓国)戦を熱気に包まれた埼玉スタジアムで観戦し、心を震わせた。
PK戦の末に決勝へ駒を進めたときの歓喜は格別だった。
レッズのアカデミー組織に入ってからも当たり前のようにACLを戦うレッズを目に焼き付けてきた。
土壇場で勝負強さを発揮し、トーナメントを勝ち上がっていた2017年大会のことはよく覚えている。
レッズユースから流通経済大学に進んで1年目。茨城県龍ケ崎市の選手寮で友人たちと固唾をのんで、決勝のアル・ヒラル(サウジアラビア)戦をテレビ観戦していた。
「88分にラファエル シルバが抜け出して、決勝ゴールを決めたときは、レッズファンの一人として、寮の中でしたが思わず大きな声で叫んでしまいました。ずっと応援してきたので、すごくうれしくて。気持ちは小学生のときと同じでしたね。やっぱり、レッズはアジアで一番強いんだ、とあらためて思いました」
アジアでも威厳を持つレッズという認識を持っていた伊藤にとって、心に深く刻み込まれているのは2019年大会である。
3度目となるACL制覇を信じ、決勝は茨城から埼玉スタジアムまで駆けつけた。
相手は2年前に一度撃破しているアル・ヒラル。大学3年生の伊藤はスタンドからじっと戦況を見つめながら、大きな衝撃を受けた。0-2(2試合合計0-3)のスコア以上に打ちひしがれた。
「かなりの差を感じました。アル・ヒラルのほうが圧倒的に強かったので。正直、悔しかったです。あのときはまだオファーももらっていなかったのですが、僕も早くレッズに戻って、ACLにピッチに立ちたいと思いました」
冬の静寂に包まれた埼玉スタジアムで、観戦者のひとりとしてただ呆然と立っていた。
どうすることもできなかった歯がゆさを忘れたことはない。ファン・サポーターの落胆する気持ちは痛いほど理解できた。
そして、いま3年の時を経て、思い焦がれたピッチに立つことができる。
「僕にとってのACLは、レッズのユニホームを着て戦うことに大きな意味がある大会。グループステージ突破は、最低限のノルマだと思っています。目指すのはもっともっと上。決勝の舞台に上がりたいですし、そこでしっかり勝って、優勝したい」
グループステージでは、幾度の奇跡を呼び込んできた埼スタの雰囲気を味わうことはできないものの、ファン・サポーターのACLに懸ける思いはひしひしと感じている。
遠く離れた場所から背中を押してくれる仲間たちの姿を思い浮かべて、死力を尽くして戦うことを誓う。
「レッズはナンバーワンにならないといけないクラブです。僕らは、多くの人たちの思いを背負っています。アジアでまたレッズの強さを示したい」
2007年からの歴史を知る生え抜きは、並々ならぬ決意で臨む。
(取材・文/杉園昌之)
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