シーズンオフに入る直前、浦和レッズのクラブハウスでアレクサンダー ショルツとキャスパー ユンカーとのスペシャル対談を実施。仲良しデンマーク・コンビに充実の2021年シーズンを振り返ってもらった。
■最も印象に残っているのは…
――Jリーグ1年目のシーズンで、最も印象に残っていることから教えてください。
ショルツ すぐに頭に思い浮かぶのは、デンマーク人の想像を絶するような夏の暑さでしょうね。
ユンカー 僕が言ったとおりだっただろ?
ショルツ いや、キャスパーから聞いていた以上だったよ。いざピッチの上に立つと、違ったね。プレーする上でも影響があったよ。
ユンカー 試合だけではなく、トレーニングするのも簡単ではなかったよね。
ショルツ そう。夜になっても蒸し暑いし、寝付きまで悪くなって……。日本の夏に適応するのは苦労した。
ユンカー 僕なんて、あの時期に顔にケガをして、黒いマスクまでしていたんだよ。
ショルツ そんなこともあったね。
ユンカー 暑さが一段と増して、すごく大変だった。
――日本の夏を乗り切るためにどのような暑さ対策をしていたのですか。
ユンカー 基本的なことですが、水分をたくさん摂るようにしていました。
ショルツ コンディション調整には、これまで以上に気を使いましたね。ピッチ内でも意識が変わりました。特にボールをロストすれば、余計に走って体力を使ってしまうので、ボールを保持する意識をより高めないといけないと思いました。あそこまで暑くなると、集中力も低下するので、気持ちが途切れないようにしていました。
ユンカー ときには我慢のサッカーも必要だったよね。
ショルツ スローダウンせざるを得なかった。ただ、我慢の夏を乗り越えると、秋から冬は快適だった。
ユンカー 北欧から来た僕たちにとっては、とても過ごしやすかったよね。雨も曇りも少ないし、冬晴れが多くて気持ちまで晴れるよね。
ショルツ それは分かるよ。デンマークに比べると、強い風が吹かないところもいい。冬の明るい空は、とても気に入っている。
■ふたりが驚いた練習前の習慣
――では、対戦相手で手を焼いた選手はいましたか。
ユンカー どのチームにもクオリティーの高い選手はいましたね。特にヴィッセル神戸のアンドレス イニエスタ選手にはあらためて驚きました。もちろん、バルセロナ(スペイン)時代から知っていましたが、年齢を重ねても、プレーは変わらないんだと思いました。
ショルツ どのリーグに行っても、手強い個人プレーヤーはいるものですよ。私がJリーグで驚いたのは、どのチームも組織的に戦ってくること。海外の場合は、決してそうではないので。日本は「個」よりも組織力で勝負してくるチームが多く、簡単に勝てる相手はいません。どこもあきらめないスピリットを持っているのも印象深いです。
――ユンカー選手は入団会見で「アジアでの冒険を楽しみたい」と話し、ショルツ選手は来日当初、「人間的なチャレンジになる」と語っていたのが印象的でした。
ユンカー 総じて見れば、エキサイティングなシーズンで悪くなかったと思います。個人の結果にも納得しています。日本での生活も満喫できましたから。残念なのは、その日本の素晴らしい環境を家族と共有できなかったことですね。
ショルツ 僕の場合は、家族が思ったより早く入国できて、良かったです。異国の地でプレーする上では大事なことですからね。クラブが万全の受け入れ態勢を取ってくれたことに感謝したい。チームメートたちもとてもフレンドリーでした。想定していたよりも早くに順応でき、いいチャレンジができたと思います。ロッカールームもいい雰囲気でした。
ユンカー そうそう。選手同士の仲は良いし、そこにクラブスタッフも輪に入ってくるんですよ。広報、通訳を含めて、垣根なくリラックスして話せる環境は良かったよね。
ショルツ 楽しかった。冗談を言い合いながら、和気あいあいとしていました。ベテランの選手が多かったですが、全体の調和を取ってくれていたと思います。
――日本ならではのロッカールームの習慣などはありましたか。
ショルツ ヨーロッパで考えられないのは、練習前にシャワーを浴びること。トレーニング開始10分前までシャワールームにいるんですよ。そして、練習が終われば、またシャワーを浴びるって、いったい日本はどうなっているのかと。
ユンカー 確かに不思議な習慣だと僕も思ったよ。
ショルツ みんながそうしていることに驚いた。
■22年は「○○」になりきりたい
――日本には「郷に入れば郷に従え」ということわざがあるのですが、ふたりともに練習前にシャワーを浴びるようになりましたか?
ショルツ ノーノー!
ユンカー それはない。正直、面倒くさいです。
ショルツ デンマークに帰国するまで、その謎は結局、解明できなかったんだよ。
ユンカー “ドレッシングルームの不思議”だったね。
ショルツ あと不思議だったのは、僕の言葉がチーム内で小さなブームになったこと。
ユンカー あー、“プロモーション”ね。
ショルツ 流動性のあるコンビネーションプレーを「プロモーション」という言葉を使って表現したのですが、なぜか日本の選手たちがそこに反応していました。
ユンカー 英語を理解し、話せる選手が思いのほか少なかったですね。ヨーロッパではドレッシングルームの共通言語があるんですけど……。サッカーの専門用語もほとんど英語で、コミュニケーションを取るのが一般的です。
ショルツ 確かに言葉の壁はあったけど、それを補って余りあるものがあったのも事実。アットホームな雰囲気が良かった。温かく受け入れたくれたのはうれしかったです。
――埼玉スタジアムに詰めかけたレッズのファン・サポーターからも歓待されていたと思います。スタンドにはデンマーク国旗があふれていました。
ユンカー スタンドを見上げると、試合を重ねるごとにデンマーク国旗が増えていきました。スタジアムの雰囲気は最高でした。本当にうれしかったよね?
ショルツ キャスパーから「最高だよ」と聞いていたけど、実際に感動したよ。僕が驚いたのはファン・サポーターのマナー。観客が3万人も集まっても、みんなが声を出してはいけないというコロナ禍の中でのルールを守るんですから。デンマークをはじめ、ヨーロッパでは考えられないことですよ。民度の高さを感じました。
――では、最後に2022年の抱負を聞かせてください。
ユンカー 日本の文化を理解し、ファン・サポーター向けにいろいろなことにチャレンジしていきたい。2021年は和装姿で、うどん職人に扮しましたが、今年は蕎麦屋になろうかなと。キャプテン翼のキャラクターにもなってみたい。力士になりきって、ショルツと相撲を取るのもいいかも。どうかな?
ショルツ いいねー。僕はサムライになろうかな。髪型もそれっぽいし。ファン・サポーターの人たちには、楽しみにしてもらいたいです。
――ファンサービスあふれる2人の意欲は十分に伝わってきましたが、せっかくですのでサッカーの話も聞いていいですか。
ユンカー スイッチを切り替えますね(笑)。僕は多くのものを勝ち取るために浦和に来ました。2022年はできることならば、すべてのタイトルを取りたい。さらに欲を言うと、毎試合ゴールを挙げたいですね。
ショルツ 上位陣に差をつけられず、最後の最後まで優勝争いをしたい。毎シーズン、新しい挑戦が待っているので、積極的にトライしていきます。
(取材・文/杉園昌之)